2.10.素早い寄生狼


 ベンツと別れ、走り続けていた俺たちだったが、今現在はその足を止めている。

 いや、止めてはいない。

 だがその場からほとんど動けないでいたのだ。


 その理由は……新たな寄生された狼の出現だった。


『くっそぉおお! なんだこいつチマチマと!』

『ガンマ! 目で追うな! 匂いの方が確実だ!』

『そりゃ頭じゃわかってんだけどさぁ!』

『……難儀な』


 今対峙しているのは子供と同じくらいの大きさの狼だ。

 だが、姿を一度も見れていない。

 匂いで何処に居るのかはわかるのだが、速すぎて目でその姿を捉えれなかった。


 匂い的に寄生されている狼だということはわかるのだが、どの部分が変形しているのかが全く分からない。

 子供の体に寄生したのだろうか。


 その速度は俺たち三匹よりも速く、オートも凌ぐ。

 攻撃自体はそんなに痛くないのだが、それでも着実にダメージが入り続けていた。


 このチビ狼の攻撃方法は炎魔法。

 タックルと同時に火花を放つだけの簡単な物だが、それを連続で続けられると毛が焦げて一瞬燃える。

 実際に体の大きいオートは一度一部が燃えた。

 だが、すぐに水魔法を使って水を生成し、消火するついでに俺たちにも水を被せてくれたのだ。

 これで暫くは燃えなくて済むだろう。


 因みに、炎魔法に適性のあるガンマは水を被らなくても、この程度の火花であれば燃えることは無い。

 なので今はガンマに盾になってもらい、少しずつ進んでいるという状況だ。


 にしても速い! 速過ぎる!

 下手したらベンツよりも速そうだ!

 前に進もうとはしてるけど、その度に正面から攻撃を仕掛けてきてくるので押し戻されてしまう。


 攻撃自体は痛くないのだが、その威力は凄まじく、何歩か後退してしまうほどだ。

 回避したいが、見ることのできない相手の攻撃を避けるのは至難の業。

 俺たち三匹は苦戦を強いられていた。


『ぬああああ! まどろっこしいなぁ!』

『お父さん何とかならない!?』

『……この辺り一帯を吹き飛ばしてもいいのなら……』

『『やめて!』』


 それだと俺たちにまで被害がくるだろうがよぉっ!

 ていうか貴方それが怖くて俺に魔法教えなかったんですよね!?

 自分はやってもいいってその辺どうなんですかちょっとぉお!


 心の中で不満をぶちまけた後、本格的にこのすばしっこい狼を何とかする為の策を考える。


 やってみたこととしては、三匹がばらばらに行動する事と、纏雷を纏いながら走るという事。

 ばらばらに行動した場合、この子供狼は更に速度を上げて威力を何倍にもして俺たちに突撃してきた。

 恐らく互いが距離を置くことによって、子供狼が走る距離が伸びるので威力がその分上がるのだろう。

 密集したら、威力は弱くなった。


 次に纏雷を纏いながら走ってみたのだが、これは無意味だった。

 この速度にもやはり子供狼はついてこれるようで、普通にタックルしてくる。

 おまけに、纏雷を纏っていても、雷魔法は子供狼に通用しないらしく、感電しているはずなのに動きは止まらなかった。


 なので、これ以外の事を試さなければならない。


『お父さん! 地面変形させてもいい!?』

『駄目だ! 奴に良い足場を与えることになる!』

『確かに!』


 体が小さいのだから、変に地面を変形させてもそれを利用して飛んでくるだろう。

 土魔法は却下だ。


 今は密集しているため、雷魔法は味方も傷つける。

 炎魔法は、俺が火力調整をできないので、雷魔法よりも危険。

 闇魔法とかどうすればいいのかわからないし、光魔法はこういうのには向かない。


 風魔法と水魔法なら使えそうだ。

 まず風魔法を試そう。

 攻撃ではなく、ただ相手を吹き飛ばす程度の威力を風に籠める。


『二匹とも踏ん張って!』

『え!? 何!?』

『ああ』


 二匹はぐっと体を地面に降ろし、次に来る俺の技に備える。

 俺は二匹の行動を確認せず、魔素を吸って魔力に変換し、一気に魔力を放出した。


『技名はないっ!』


 ただ風を周囲に引き起こすのだけの技に、技名などはない。

 風魔法の風圧と似てはいるが、あれは風の圧で敵を潰す技だ。

 何て技を教えてくれたんだオトン。


 それは小さい体の子供狼を吹き飛ばすには十分だったようで、ようやく俺たちの目にその姿が写った。


 匂いで感じとった通り、その狼は子供であり非常に体が小さい。

 しかし、やはり体に変化が起きていた。

 その子供狼は、思った以上に体が小さく、足が針のように尖っている。


 風で吹き飛ばされて転んでしまい、足が変に尖ってしまっているため立ち上がるのに苦戦しているようだ。

 やるなら今だ。


『ガンマ!!』

『っしゃああ任せろくそがぁああ!!』


 ガンマは一回の跳躍で一気に近づき、大きく腕を振り上げる。

 溜まり溜まった苛立ちをそいつにぶち込むように、全力で地面にお手をした。


 ドンッ……ズンッ!!


 ガンマが全力で手を地面に叩きつけたのだが、暫くは大きな音がしただけで何も起こらなかった。

 しかし、時間さで一番初めよりも大きな音と共に、地面が大きく凹んだ。

 地響きがこちらまで伝わってくる。


 俺はガンマの容赦の無さにドン引きしているのだが……まぁ、よく頑張ってくれたと思っておこう。

 ああ、あの可愛いガンマは一体何処へ……。


『っしゃおらぁ!』

『……まぁあの体の大きさだと、結局助からんだろう』

『そこなの? 気にするところそこなの?』


 とりあえず、これで邪魔する奴は消えた。

 後は、また走っていくだけである。


 そう思い、目的地の方向へと体を向けた瞬間、何かの匂いが高速で近づいてきているのに気が付いた。

 その方角…は…ガンマの方だった。


『ガンマ! 避けろ!』

『は? ぐぉ!? うおおおおおおぉぉぉ……』


 ガンマに、ガンマと同じくらいの大きさの何かが体当たりをし、そのままガンマを高速で何処かへ持って行ってしまった。

 だんだん声が遠くなっていく。

 咄嗟のことで理解できなかったのだが、声が聞こえなくなったと同時に何が起こったのかをやっと理解し、驚愕する。


『ええええええ!? が、ガンマー!!』

『……これもいい経験か……。オール行くぞ』

『え、マジ!?』


 振り返ってオートの方を見てみると、すでに走り出していた。

 俺は一瞬迷ったが、ガンマならあれくらいの敵は何とかなるだろうと思い、オートの後をついて行くのだった。


『多分大丈夫……だよな?』

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