2.7.敵リーダー?
ようやく敵のリーダーと思わしき狼の匂いがわかった。
匂い的には、他の狼とほとんど同じであり、特に変わっているということはないようだ。
『距離はどれくらいある?』
『あと二区画』
狼たちに人であった時の知識はほとんど通用しない。
なので距離を聞かれて、あと何キロだよと言っても伝わらないのだ。
ではどうしているかというと、先ほど俺が言ったように区画を目安にして距離を伝えている。
区画は縄張りのことで、その大きさは大体十キロだ。
形とかはあまり決まっていないが、殆どの区画の端から端がそれくらいである。
匂いが辿れるようになったのが大体十キロ……。
って、お父さんどんだけ目がいいんだよ……。
俺見えなかったよ? 山しか見えなかったぞ?
一体何キロ先の物まで見えるんだ……。
相手方も下に降りてしまった為、もう目では捉えれていない様だが、それでもあれだけの距離から敵を発見できるというのはすごいことだ。
俺にはまねできない。
そういえば……ベンツとガンマは大丈夫だろうか?
先ほど雷の音と、地響きのような物が聞こえた気がしたのだが……。
まぁあの二匹が簡単に負けるとは思えないし、大丈夫だとは思うのだが、やはり心配だ。
弟だからな。
無事かどうかだけでも確認したい所だが、残念ながら俺は味方の安否を確認できる魔法を持っていない。
集中して匂いを辿ればわかるだろうが、今は敵のリーダーを捉えているため、他に集中することが出来ないのだ。
心配ではあるが、俺はあいつらを信じて敵のリーダーを倒すことに集中する。
俺とオートは速い速度で駆けている為、二区画分の距離などすぐに走ってしまう。
それに加え、相手もこちらに向かって真っすぐに向かってきている。
なので、想像より早く接触することが出来た。
俺とオートは相手が見えた瞬間、足を止めて警戒する。
それは相手も同じであり、姿勢を低くしてこちらを威嚇していた。
リーダーと思わしき敵の狼の体躯は非常に大きく、オートよりも大きい。
毛並みはハリネズミと思うほどに逆立っており、その一本一本が鋭そうだ。
そして鋭い爪が既に地面に突き刺さり、口から垂らしている涎は地面を溶かしていた。
『お父さん、あれ本当に俺たちと同じ種族?』
『俺も見たことがない。とりあえず任せるぞ』
『分かった』
オートはそう言うと、後ろに下がる。
それを確認して俺は前に出た。
敵のリーダーは、自分と戦う相手が俺だけだと悟ると、あからさまに不機嫌になる。
自分より体の小さい奴が前に出てきて、戦うというのだ。
舐められているとでも思ったのだろう。
「グルガァアアア!」
怒りを露わにして大きな声で吠える。
その声は草木を振動させるほどの物であり、耳がキーンとなった。
それによって一瞬反応が遅れてしまう。
気が付けば既に俺の目の前に迫っており、牙をむき出しにして爪を振りかぶっていた。
速い。
だが、この速度であれば問題はなかった。
すぐさま闇魔法のワープゲートを出現させてくぐり、敵のリーダーの後方へとワープした。
いきなり黒い靄が出て、自分が振るった爪が空を切ったことに驚いている瞬間に、俺は技を繰り出す。
『身体能力強化、雷魔法・
身体能力強化の魔法で肉体を強化して素の攻撃力を上げる。
そして、雷魔法の
魔法は一度に一つしか使えないと教えられた。
だが、そんなことは無いはずだと思い、俺は特訓に特訓を重ねて、今では三つまでは同時に魔法を発動させることが出来るようになったのだ。
結構時間がかかってしまったが、それでもまだ実践に使えるのはこれくらいしかない。
なにせ、使えないと言われている同時魔法を無理矢理使えるようにしたのだ。
これには相当な集中力と器用さのような物が必要となる。
だが、それの威力は他の魔法とは比べ物にならない。
俺の振るった風刃は巨大で、地面を削ぎながら敵のリーダーへと直進していく。
後ろを完全に取った攻撃。
勝利を確信した俺だったが、それはすぐに驚愕の表情に変わる。
ベギギャッ!
『なんっ!!?』
確かに俺の放った風刃は確実に後ろを取っていた。
相手からは見えない角度で攻撃したし、ワープ直後だったので不意も狙えていたはずだ。
だが、今目の前で起こったことがそれをすべて否定させる。
敵のリーダーは、大きな尻尾を横に凪いだだけで、強化に強化した風刃をへし折ったのだ。
俺が一番強いと自負していた攻撃だぞ!?
そんなビンタするみたいに弾き返すなや!
自信無くすだろうが!
一体どこにあの攻撃を弾くほどの力があるのだろうかと思い、攻撃が当たったはずの尻尾を見てみた。
すると、いくつかの毛が切れて地面に散らばっているのがわかる。
だが、切れた毛はすぐに再生して元通りになった。
しかし、それだけでは終わらなかったようだ。
尻尾の毛が異様に伸び始め、蛇のように長くなり、それを振り回し始めた。
次の瞬間、まるで鞭を打つかのように俺に叩きつけてくる。
『うおお!?』
軌道が読みにくく、どっちに回避すればいいのか一瞬迷ったが、右に大きく動いてその攻撃を回避した。
尻尾は地面に叩きつけられ、逆立って硬そうな毛が突き刺さる。
避けられたことに気が付いてのか、すぐに尻尾を動かして俺を追うように攻撃してきた。
地面に尻尾を引きずっての攻撃だったので、すぐに跳躍して避ける。
しかし、それを待ってましたと言わんばかりに、今度は尻尾をうねらせて空中にいる俺に向けてきた。
空中では回避行動がとれない。
普通であればこの攻撃は確実に受けてしまうだろうが、俺にはワープゲートがあった。
すぐにワープしてその攻撃を回避して距離を取る。
『んん……面倒くさい!』
俺の持てる最高の攻撃を弾くことのできる硬すぎる尻尾。
それに加えて、その毛は再生する。
更には予測できない攻撃。
完全に尻尾だけで攻防を成せている。
俺の持てる魔法で、こいつに通用する攻撃ってなんだろうか……。
肉体的に身体能力強化の魔法じゃ追いつかない。
それに一番切れる風刃は効かないことが分かった。
あと、回避は意外と余裕。
『ま、一個一個試してみましょうか……』
今まで特訓してきた魔法の試し撃ちを、ここで全てやってしまおう。
残りは……光魔法、水魔法、炎魔法、土魔法だ。
回復魔法は使う意味ないので除外。
「ガァアア!」
まず一つ目! 光魔法!
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