第16話 吉行俊介・手袋を拾う
吉行くんに手袋の話を聞いてから、半年以上が経った。
実は今日、彼にほんの数時間前に会い、続報を聞くことができた。
僕は暇人なので吉行くんの予定を優先し、彼の通う大学の最寄り駅に隣接するコーヒーショップで、つかの間の再会となった。
彼は以前と比べ、少し痩せたようだったが、元気そうだった。明るめの髪色を戻し、黒のスーツを着ていたので、僕は(彼もいよいよ就活か)と思った。
「例の手袋の件なんですけど、実は解決したみたいなんですよ」
そういう笑顔が、とってつけたように快活そうだった。
「あの後、2回見つけたんですよ。1回目は俺の家の近くの交差点で、電柱の下に落ちてました。ほっといて通り過ぎたら、次の日にはなくなってましたけど。
でもね、その時思ったんですよ。これは次、いよいよ家まで来るなって。だからこそ受け身じゃいけないと思って、決めたんですよ。
次に見つけた時は、拾ってやろうって。
で、次が去年の11月くらいでした。もう俺ん家のすぐ前。門柱のそばにぺたっと落ちてました」
「え? ほんとに拾ったの?」
思わず口を挟んでしまった。吉行くんはどこか誇らしげに「はい!」と答えた。
「よく拾ったな……気味が悪かったでしょ」
「いやー、そりゃ気持ち悪かったですよ! まだキレイなやつで、ちゃんと両手が揃ってる、スウェード地の手袋。ほんとに、あの日駐輪場で見たやつと同じに見えるんですよ。でも拾うって決めてましたから」
「凄いなぁ……で、それどうしたの?」
「近くの交番に、『落とし物です』って持って行きました。で、それからは見ないですね。もう4ヵ月近く経つはずですけど」
「そうかぁ……よかったじゃない」
「えへへ、そっちは残念そうですね」
「まぁ、もっとすごいオチを期待してたからね」
その後少し世間話をして、吉行くんは去っていった。彼が去った後、コーヒーショップで聞いた話をまとめていると、たまたま彼を紹介してくれた友人から連絡がきた。
「実は今、××駅にいるんだよ」
『おっ、実は俺も大学に顔出した帰りなんだ。ちょっと会えないか』
そういうことになったので、そのまま待っていると友人がやってきた。
「よう呉島。暇人のお前が、何でわざわざこの辺まで出てきたんだ?」
「実はさっきまで吉行くんと会ってた。ほら、前に紹介してもらった、ワンダーフォーゲル部の」
「吉行? あいつ、生きてたのか」
「おいおい、随分な言い方だなぁ」
僕が冗談だと思って笑うと、友人は顔をしかめた。
「いや、ワンゲル部の集まりで現役の子に聞いたんだけど、あいつ、去年の冬あたりから大学来てないらしいぞ。部活にも全然来ないって」
「え? 忙しそうだったけど? 就活とかじゃないの?」
「いくら就活っつっても、授業に出なきゃ卒業できないだろ。全く見ないってのは変だよ」
さっき見た吉行くんの快活そうな笑顔が、記憶の中でだんだん不吉なものに変質していく。
浮かない顔をしつつ、友人は続けた。
「その現役ちゃん、最近吉行のこと見かけたらしいんだよ。○○線の××駅に大きい駐輪場があるんだけど、そこに立ってたんだって。電車の方見ながら。確かに吉行だったって言ってたぞ」
そのとき吉行くんが赤い手袋をしていたか尋ねてみたが、聞いてないからわからない、と言われた。
現在、再び吉行くんと連絡をとるか、その時何と言えばいいのか、迷っている。
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