第29話 陣内晴海・ちょっかい

 陣内くんは、相変わらず変な人に好かれる。


 先日も、彼の倍くらい横幅がありそうな女性に「キミにお金あげていい?」と話しかけられて、走って逃げていた。




 昨年の年末、陣内くんは帰省のために特急電車に乗った。窓側の席に座って電車に揺られているうち、だんだん眠くなってきた。どうも彼は、乗り物に揺られると眠くなってしまうらしい。


 右頬をつんつんと押されるような感覚がして、目が覚めた。


 目を開けて右を見ると、電車の窓から車内に上半身をねじ込んだ若い女が、尖った爪の先で陣内くんの頬をつついているところだった。


 はっとしたような顔の女と目が合った。


「……誰すか?」


 寝ぼけ眼の陣内くんがそう尋ねると、女はにゅるにゅるっという感じで引っ込み、窓の向こうに姿を消した。




 その時、電車はトンネルの中を走行中で、窓はそもそも開かない造りになっていた。

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