第7話 加賀美一尚・ガンガン
加賀美さんが、仕事で都内の某駅を訪れたときのこと。
打ち合わせが思いの外早く片付いたので、加賀美さんはすぐに帰社せず、駅前の喫茶店で時間を潰していた。
テーブルについてのんびりコーヒーをすすっていると、隣の席に座っていたサラリーマン風の男が、なんと突然、頭を机に打ち付け始めた。
ガンガンと物凄い音がする。
加賀美さんは驚いてそちらを向いたが、男はそれに気付かないのか、なおもテーブルに頭をぶつけ続けている。勢いはすごいのに、表情はつんと澄ましたような顔のままだ。シュールである。
近くのテーブルの客は、素知らぬ顔で新聞を読んだり、おしゃべりをしたりしている。
(やべぇ人見ちゃったなぁ。俺も知らないふりしてた方がいいかな……にしてもうるせぇ!)
顔を背けながらも気にしていると、ふと妙なことに気付いた。
男が頭を打ち付けているテーブルには、氷だけが残されたグラスが3つ、まとめて置かれている。さっきからガンガンと机に頭をぶつける音はするが、グラスの触れ合う音がしない。倒れたり、テーブルから落ちたりもしていない。
おまけに、本当に誰も男を止めようとしていない。客だけでなく、店員までまったく知らないふりをしているのは、さすがにおかしい。
もう一度確認しよう、と加賀美さんがそちらをチラッと見ると、一瞬前までガンガンと音を立てていたのに、男の姿が見えなくなっている。もちろん音も止んでしまった。
(あれ?)
呆気にとられていると、店員がささっと近づいてきて、テーブルの上に載っていたグラスを片付け始めた。
「絶対人間だと思ったんだよなー。すごくはっきり見えたし、めちゃくちゃうるさいから」
と加賀美さんは言う。
ちなみに彼によると、「ガンガン男」はその沿線上を移動しているらしく、これまでにも何度か、別の駅のファミレスなどで見かけたことがあるそうだ。
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