第13話 番外編 本間竜一・そこじゃない

 ところで、前回本間さんから聞いた話について、ふと疑問を感じたことがあったので尋ねてみた。




「ジャージの紐が球状になってたって話ですけど……本間さん、結んだあとの紐そんなに余るんですか?」


 その途端、鬼瓦のような顔で睨まれた。


「何? お前それは、俺がデブだって言いたいわけ?」


「デブとは言ってませんよ。本間さんのジャージの紐は、そんなに長いのかどうかってことを知りたいだけですよ」


「つまり遠回しにデブだと言いたいんだな?」


 否定できなかったので僕は黙った。本間さんは冬だというのに汗を拭きながら、


「おめー、デブのジャージ舐めんなよ? お前のジャージの紐くらいは余るわ!」


 と見得を切った。今彼は自分で自分のことを「デブ」だと言った気がする……でも黙っておこう。


「言いたいことは言った」と感じたのか、少しトーンダウンした本間さんは、「でもよー」と話を続けた。


「そういえばあのアパートに住んでた頃って、俺結構痩せてたんだよ」


「へー」


「へーってお前、本気にしてねーだろ。体重110キロ超えてたのが、80切りそうなくらいまで減ったんだぞ。すごくね?」


 それはすごい。


「それマジですか? 本間さん、その頃病気とかしたんですか?」


「いや、何もなかったと思う。周りからも心配されるくらいだったんだけど、アパート出たら戻っちゃったんだよ」


「マイナス30キロって、仮にアパートのせいだとしたら、やばいですね……」


「やべーな……またあそこに引っ越したら、同じくらい痩せるかな……」


 いや、そういう「やばい」じゃないだろ。


「だよな……あそこ六畳一間だもん。フィギュアとか置く場所ねーよ」


 いや、そこじゃなくて。


「あ、そうか。この年でジャージ下ろせなくて、ションベン漏らしたりすんの嫌だもんな!」


 だからそこでもなくて。

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