第4話 加賀美一尚・先客
まだ僕が会社勤めをしていた頃の話だ。
N駅近くのタイ料理屋で、大学の後輩の三上と飲んでいたら、たまたま霊感に定評のある男・加賀美さんに出くわした。
初対面にも関わらず、三上と加賀美さんはゲームの話で意気投合した。3人であれこれ話しているうちに、終電を逃してしまった。
仕方がないので、僕と加賀美さんは三上のアパートに泊めてもらうことになった。
三上のアパートは築年数の浅い2階建てで、2階の角部屋が彼の部屋だった。8畳ほどの1Kで、狭いながらも快適そうな住まいだ。
「適当に座ってくださいよ~」
と言いながら、座布団を床に撒く三上もなかなか甲斐甲斐しい。
コンビニで買ったビールや焼酎をチビチビ飲みつつ、3人でゲームをしていると、そのうち加賀美さんが「トイレ貸して」と言って立ち上がった。
「部屋出て、右側のドアっす」
「どうもー」
彼はよちよち歩きで部屋を出て行ったが、すぐに戻ってきた。
「ごめん、なんか鍵かかってるみたいなんだけど」
「あー、よくあるんですよ、うち。ドアノブの横にちっさいポッチがあるんで、それ押すと開くんです」
そう言いながら立ち上がろうとする三上を、
「あー、大丈夫。なんとなくわかった」
と制して、加賀美さんはもう一度出て行った。
そして、またすぐに戻ってきた。
「用事思い出したから、俺ちょっとコンビニ行ってくるわ」
トイレはどうした? と思いつつ、
「あ、じゃあ一緒に行きますよ。氷ないから」
僕もそう言って、家主の三上を置いて部屋を出た。加賀美さんの様子がおかしいので、実は見た目以上に酔っているのではないか、と心配になったのだ。
コンビニに着くと、加賀美さんはトイレに駆け込んだ。そして僕が氷と酒を買い足して会計を終える頃、のろのろとトイレから出てきた。
「遅かったじゃないすか」
「俺、ウンコもしてきたもん」
コンビニから部屋に戻る途中、夜道で加賀美さんがやぶからぼうに言った。
「三上っちの部屋のトイレな、便座の上でずぶ濡れの女が体育座りしてるぞ。俺あんなとこで用足せねーわ」
心底聞かなければよかったと思った。
加賀美さんはその後も、始発電車が出るまで三上の部屋に居座り、酒を飲みながらゲームをやり続けた。
始発までにもう2回、2人でコンビニに駆け込む羽目になった。
コンビニからの帰り道、僕はふとあることを思い出した。
「そういや加賀美さん家って、ここから歩いて帰れる距離じゃなかったですか?」
「俺の天鱗が出ねえんだよ! 出るまで帰らねえ!」
怒られた。結局レアアイテムが出ないままに夜は明けた。
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