第23話 陣内晴海・紛失

 陣内晴海じんない はるみくんは、霊感に定評のあるグラフィックデザイナー・加賀美さんに紹介してもらった人だ。


 彼に実際に出会う前、加賀美さんからこんな話を聞いた。




 陣内くんは加賀美さんが通っていた大学に通う学生だ。真面目ないい子だが、「妙な引きが強い」のだという。


 曰く、心霊スポットに連れていけば、後日必ず体調を崩す。


 ひとりでアパートを探しに行けば、殺人事件があった部屋の隣に入居してしまう。


 実家に帰省した日には、門柱に車が突っ込んできた。それも、2年間で3回。


「最近は、ゲイのストーカーに追いかけ回されてるんだと。そっちは俺に相談されても仕方ないから、背後に気を付けろと言っといた」


 加賀美さんは半分笑っているが、本人はさぞ大変だろう。




 陣内君も「俺はなんか変だな」と思っているらしく、一時期はあちこちの神社に行っては、厄除けのお守りを購入していた。(ちなみに圧倒的確率で凶以下を引いてしまうため、お御籤は引かないらしい)


 ところが、そのお守りをいつの間にかなくしてしまう。


 彼はお守りを購入すると、まず、いつも持ち歩いている鞄の内ポケットに仕舞っておいたらしい。ジッパーが付いているので、ひっくり返しても落ちることはない。


 ところが、ある日そのポケットを開けてみると、お守りだけが消えている。


 そんなことが続いたので、彼はお守りの定位置を変えてみた。アパートの靴箱の上に小さな箱を置き、その中に入れることにしたそうだ。ところが数日後に開けてみると、案の定そこからもなくなっている。


 そんなことが続いたので、いつしか彼はお守りを買わなくなった。




 ある日、陣内君が指輪を外して家事をしていたところ、うっかり床に落としてしまった。指輪はコロコロと転がって、2つある本棚の間の僅かな隙間に入っていった。


 落としてしまった指輪は、当時付き合っていた彼女とお揃いで買ったペアリングだった。仕方がないので小さな方の本棚を動かし、指輪を拾うことにした。


 本棚の中身を取り出し、よいしょとどかした瞬間、ぽそ、というような音がした。


 何か落ちたのかな、と本棚を大きく動かすと、壁との僅かな隙間から、なくしたはずのお守りがいくつも出てきた。




「あいつ、半泣きで俺に電話してきたわ」


 そう言って加賀美さんは笑うが、僕は面白がっていいのかどうかわからなかった。


 近々陣内君本人を紹介してもらうまで、元気でいていただきたいものだ、とその時は思った。

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