第2話 加賀美一尚・黒くなる家

 霊感持ちで定評のある、実家が神社のグラフィックデザイナー・加賀美さんには、今までにも色々と話を聞いている。


 その中でも、こちらまで酷い目に遭った話。ちなみに今回の話も、彼が大学生の頃にさかのぼる。




 加賀美さんが大学時代から住んでいるアパートの近くに、だんだん黒くなる家があった。


 それは何とかニュータウンという、新築住宅が立ち並ぶ一角に建てられていたそうだ。きれいで明るい雰囲気の家が連なっている中に、壁全体が黒ずんでいる家があることを、彼は最初、単純に変だなと思っていたという。


 その家は加賀美さんのアパートと大学の間にあったため、毎日のように彼はその前を通っていた。ある日ふと、この家は前より黒くなっていないか? 元々の壁の色とか、汚れとかとは違うんじゃないか? と気付いてしまってからは、そちらを気にするようになったという。


 黒い家はだんだん色が濃くなっていき、加賀美さんが卒業するまでに、とうとう黒いシルエットのようになってしまった。


 卒業後はあまりその前を通らなくなったそうだが、社会人になっても同じアパートに住み続けていた彼は、たまにそちらの方へ散歩に行くことにしていた。


 普段は幽霊の類を見てもシカトすることに決めている加賀美さんだが、この家のことだけは、なんとなく気になって仕方なかったという。


 家は相変わらず真っ黒な影のようで、玄関も窓もわからないほどだったが、人が住んでいるようだった。こんな家に住めるのか、と驚いたと同時に、その住人に声をかけてみたくてたまらなくなったそうだ。


「やばい人としか思われないと思って、それはやめたよ。まぁ、俺にしか黒く見えてないみたいなんで、住む分には問題ないかもね」


 彼はそう言って笑った。




 僕は、この真っ黒な家の話が妙に気になったので、続報があったら是非教えてほしいと頼んでおいた。


 それから2週間ほどが経ったある日、僕のスマホのキャリアメールのアドレスに、加賀美さんからメールが届いた。


『こないだ話した真っ黒な家 の跡地です

 ひさしぶりに行ったらなくなってました。更地になった事情は知りません

 棒人間みたいなのがいっぱいいるんだけど、写らなかった(;´∀`)ゴメンネ』


 その文面と共に、土台まで撤去され、平らにならされた土地の写真が送付されてきていた。残念ながら僕が写真を見ても、その「棒人間みたいなの」は確認できなかった。


 誰かに見せてみようかと思ったが、そのメールを確認した直後、僕のスマホがブーンとひとつ震えて電源が落ち、そのままウンともスンとも言わなくなってしまった。


 すぐにショップに持っていったが、受信メールはおろか、スマホ本体とSDカードに保存されていたすべてのデータがやられていた。結局、半端な時期に機種変更をするはめになってしまった。


 黒くなる家の真実はともかく、加賀美さん絡みで一番実害を被った出来事である。

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