呉島四郎の怪談交友録
尾八原ジュージ
第1話 加賀美一尚・ドライブ
僕の大学の先輩が紹介してくれた
マッシュルームカットにお洒落なフレームの眼鏡をかけたクリエイティブ感溢れる人だが、実は実家が由緒ある神社で、本人も霊感が強いと評判のある人だ。
今回は、加賀美さんが大学生だった頃の話。
夏休み、加賀美さんは暇を持て余した友人3人と、心霊スポットに行くことになった。
曰く「遠出しなくても幽霊は見れるし、わざわざ見るもんでもないし、ついてきたらめんどくさい」ということで、加賀美さん自身は心霊スポットには行きたがらない。だが、この時はあまりに暇だったのと、友人が新しく買った車に興味があったので、仲間に入ることにしたのだった。
友人のアパートから1時間ほど車を走らせ、加賀美さんたちはある山のトンネルに到着した。友人によると「入り口に若い女が立っていて、四つん這いで追いかけてくる」という、いかにもな噂があるらしい。
加賀美さんは内心、鼻で笑い飛ばしていた。彼にはそのトンネルが、ごく普通のトンネルにしか見えなかったのだ。
立地と暗さ、加えてめったに車が来ないために不気味ではあるが、「何かいるな」という感じはまったくない。友人の「歩いて向こう側まで行ってみよう」という提案が無性に面倒くさくなった加賀美さんは、「いや、俺は絶対に入りたくない」と芝居を始めた。
「ここはやばい。早く離れた方がいいぞ」
そしてクーラーのある部屋で飲もうじゃないか、というつもりだったそうだ。しかし友人たちは、反対に「ヤバいとこなら好都合」と盛り上がり、トンネルへ向かっていってしまった。
「加賀美は車で待ってろよ。すぐ戻ってくるからさ」
がっかりした加賀美さんは一人で車に残り、後部座席に寝転がってぼーっとしていた。暑い上、エンジンを切っているので、頭が熱くなって、つい眠ってしまいそうだった。
ふと、車の天井がきしんだような音をたてた。途端に「何かいるな」という雰囲気が車内に立ち込めた。彼は体を起こした。
助手席のダッシュボードの下に、全裸の人間が詰まっていた。手足をぎゅうぎゅうと折りたたみ、肩の上に顔を押し付けていた。
気付かれると嫌だな、と思った加賀美さんは、そっと車を出ると、トンネルの中の友人たちを追いかけた。
「だって、トンネルの中の方が安全だったもんね。何もいないんだから」
と、彼は苦笑いした。
ちなみに加賀美さんが後日、車の持ち主にその話をしたら、「そういえばあの車は中古車だが、状態の割にやたらと安かった。車に何かあるのかも」と怖がり始め、すぐに車を売ってしまったそうだ。
しばらく中古車ショップに展示されていたが、売れてしまったらしい。売られた先は、さすがにわからない。
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