第15話

 まだ肌寒いその朝、目が覚めた俺は大量にかいた汗で全身が冷え切っていた。

 体がブルッと震えたのは、その冷えのせいだけではなかった。


 この感覚――いつだったか、最近感じたことがある

 これは……そうだ

 由香と会っていて一瞬気が遠くなりそうになった時――

 あのとき、なぜかもう一人の自分が自分を見ているような気がしたんだ 

 背筋がゾクッとなったあのとき――何の話をしてたんだっけ……


「……ふう」

 とりあえず台所へ行き、冷たい水で顔を洗う。

 少しずつ頭がはっきりしてきた。

 由香とメールの話をしていたとき。返信がなかったと言われ、玲は一体いつからいなくなったのか気になっていた。

 メールした時間を聞こうとした時、由香が――。

「そうだ……夢だ」

 夢という言葉を聞いた瞬間、頭の中がぐらぐら揺れたのを思い出した。

 夢と、もう一人の自分。何のことだかさっぱり分からないが、昨日までとは何かが違う。


 俺は玲を捜す

 そして、見つけ出さなければいけない

 そうしなければ――俺が俺でなくなってしまう


 なぜか、そんな気がしていた。

 汗で汚れた体をシャワーで流し、母親の家へ向かう。

 先日来た姉の家から、すぐ近くだった。

「…………」

 玄関の前まで来て、俺はまたしてもためらった。

 夢の中で自分が死に追いやった母親に会うのが、なんだか急に怖くなった。

「あら、中川さん。おはようございます」

「うわっ!」

 突然声をかけられて驚いて振り向くと、そこには玲の姉が立っていた。

「あ……えっと……おっ、おはようございます」

「驚かせてごめんなさいね」

 姉は笑いながら言った。

「今日は母の番なのね。ちょっと待っててね」

 玄関を開け、母親を呼んでくれる。少し気が楽になった。

「初めまして、あなたが中川さんね。さあ、どうぞ」

 夢の中に出てきた母親が、玄関に出てきて挨拶をする。

「おじゃまします」

 顔を見ても、不思議と動揺せず落ち着いている自分に驚く。

「私はお買い物に行ってくるね。中川さん、ごゆっくり」

 姉は気を利かせて外出したようだ。

 ここでも和室に通され、コーヒーを出される。この前行った姉の家とよく似た造りだな――そんなどうでもいいことを考えていたら、母親が突然俺に聞いた。

「中川さん。あなた……よく夢を見ます?」

 そのとき、俺の中の何かが動いた気がした。

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