第13話

 最後の言葉がよく聞き取れないまま、ふいに電話が切れた。

 携帯を見ると電池がなくなって、画面が真っ暗になっている。

「俺っていつもこうなんだよな……」


 大事なときに腹が痛くなったり、忘れ物をしたり――

 なんだってこう、俺はいつも間が悪いんだ


 自分に呆れながら公園を出てアパートへ帰る。

 結局、断れなかった。

 課長の話を聞いてはいたが、頭には何も入らなかった。それでも言われたとおりに、今日はゆっくり休んで明日母親に会うことに決めた。

 とにかく、何かを考えることを頭が拒否している。

 由香から聞いたことを思い出して整理しなければ、課長から言われたことをもう一度思い出して――とは思うのだが、脳がそれらを拒絶している。

 考えることが苦手とかそういう問題ではなく、拒んでいる。


 それなら……寝るしかないな


 考えないためなら、寝るしかないのだ。

 最近は酒も飲まずに早く寝ているのに、なぜか体は疲れきっている。これならいつでも、いくらでも寝られる。

 案の定、布団に入るとすぐに睡魔が襲ってきた。

 俺はこのとき、なぜもっとよく考えなかったのだろう。

 夢をあれほど気にして怖がっていたのに、なぜ何も考えずに眠ってしまったのだろう。


 由香が言っていた――自分の次は母親だったと

 昨日の夢の中で自分が言っていた――次は母親に、と……


 この夜も当たり前のように夢を見た。

 玲の母親。彼女に、玲の身代わりとなって自ら死を選ばせる夢を。


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