4-2

 呼び出し音が聞こえる。


 暑さのせいじゃないじっとりとした汗が出てケータイを持つ手が湿っている。

 ぶつっと通話が繋がる音がする。


「あ、もしもし?」

「あのーわたくしですね、あの、中学校の時に同じクラスだったですね……」


「え、ショウくんでしょ? 通知に名前出てたけど」

「あの……あ、はい、そうです」


「よかった。連絡してきてくれたんだね」

 僕はそれを聞いてほっとする。


 よかった、あれは夢じゃなかったんだ。

 ざまーみろい! スマートフォンをぎゅっと力を込めて握った。


「ああ、うん。そうだよ」

「じゃあいろいろ聞かせてよ、そっちの大学の話とかさ、あと、同窓会なんで休んだのかまだ聞いてないし、ね」

 さっきとは違う種類の汗が背中を流れた。


「っと、その前にさ、いろいろ確認したいことがあるんだけど」

「ん、なに?」


「えーっといろいろあってまとまらないんだけど。あのお化け屋敷の中の世界ってさ、一体何だったんだろ?」

「んー、はっきり言うとわかんない」

「そう……ですよね」


「でもね、さっきお母さんに聞いたんだけど、私、昨日お祭りからちゃんと自分の足で歩いて帰ってきたらしいの。ふらふらーって感じで、で、そのままいつも通りに寝てたらしいの。あんまり記憶ないんだけどね」

「そうなんだ、じゃあやっぱり夢じゃなかったんだ」


 僕は1人暮らしだからそれを確かめる術が無かったけれど。うーん、すごい超常現象に出会ってしまったような気分だ。


「一番怪しいのはあのお化け屋敷のおじさんだけど……。一体どんな方法であの世界があったのかは全然わかんないよ。催眠術とかなのかな?」

「なるほど催眠術か、その可能性はありそうだね」


 あのおじさんの怪しい雰囲気は尋常じゃなかったしな。でも一体何の目的があったっていうんだろ。


「さ、じゃあショウくんの大学の話を」

「ちょちょ、ちょっと待って、まだ聞きたいことあるんだよ」

「なぁに?」


「どうして僕たちは2人が一緒のあの世界に迷い込んだんだろ? 他にもお化け屋敷に入ってく人がいたでしょ?」


「あぁ、それね」

 咲ちゃんは答えを知っているなぞなぞを聞かれたような声で返事をしてきた。

「何か心当たりが?」


「あるよ、私の勝手な推測だけどね。聞きたい?」

「聞きたいです」

「じゃあ後で私の質問に絶対嘘つかないで答えてくれるって約束する?」


 なんだその底抜けに怖い交換条件。

 だけど、謎のままほっとけるわけない。

「わかった、約束するよ」この際だ、なんだって答えてやろうじゃないか。


 咲ちゃんは一拍置いて話し始めた。


「あの不思議な世界は、私たちの想像が具現化する世界だと仮定するよ、信じられないけどね。それでショウくん、お化け屋敷を歩いてる時に昔のこと考えてたでしょ? それときっと私たちがお化け屋敷に入るタイミングが偶然一緒だったんじゃないかな」


 なるほど。でもそれだけなんだろうか。


「私もなんだよ」

「えっ」


「久しぶりにお化け屋敷に入って、あの時のこと思い出してたの。私たちがまだ小学生だった頃のこと。つまり、2人が同じことを想像してたから、同じ1つの想像の世界に2人の人間が迷い込んじゃったんじゃないかと思ったの」

「なるほど……」


 咲ちゃんも、あの時のこと覚えていたのか。もう10年も前のことなのに。

 なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。


「さて。ここからも私の推測なんだけどね。あの世界には私たち2人の記憶や想像が入り混じっていた。例えば死霊の盆踊りや銀河鉄道は私の想像、神社の建物なんかはショウくんの想像。そうだよね?」


 僕は「うん」と返事をする。咲ちゃんの口調に、なんだか探偵に追い詰められている真犯人のような気持ちになってくる。


「1つだけ分からないんだけどさ、あの世界の小さいころのショウくんと私って付き合ってていい感じだったじゃない? 

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