3-6
咲ちゃんはおもむろに立ち上がって言った。
「よし、なんとかしてここから出る方法を探そうよ、ショウくん」
僕は咲ちゃんを見上げて「うん、でもどうやって?」と尋ねる。
「私ね、いいこと思いついたの」
咲ちゃんは不敵にニヤッと笑った。
そしておもむろに目を瞑って両手の人差し指をこめかみに当てた。
すると、どこか遠くの方から蒸気の音が聞こえてきた。
その音はだんだん大きくなっていき、本殿の屋根の上から滑るようにして銀河鉄道が走ってきて、僕らの目の前に止まった。
窓からは黄色い光が溢れていて、辺りの雑木林を明るく照らしていた。
車体の下のピストンから大量の蒸気がプシューと出てきて、辺りは真っ白になった。
「夢から出るとしたらやっぱりこれでしょ! 銀河鉄道」
「す、すごい。やっぱりなんでも想像したものが現実になるんだ。……でもなんで銀河鉄道なの?」
咲ちゃんは客車に続く階段を登る。途中で振り返って蒸気の音に負けないようにして言う。
「私が好きだから! さぁ、ショウくんも乗って」
咲ちゃんは僕に手を差し出した。
僕はその手を握ると引き込まれるようにSLに乗り込んだ。
車内は木でできた床や天井から垂れた黄色い光のランプが妙に印象的だった。
緑のふわふわとしたシートのボックス席に向かい合って座ると、銀河鉄道は警笛の高い音をポーッと鳴らして浮かび上がった。
窓の外は蒸気で濃い霧がかかったようになっていて何も見えなくなっていた。
「ねぇショウくん」
「なに?」
窓の外を見ていた咲ちゃんが僕に向き直る。
「ショウくんは、現実に帰りたい?」
どうしてそんなことを聞くんだろう。
「そりゃそうだよ。咲ちゃんだってそうでしょ?」
「現実に戻る方法、教えてあげようか」
咲ちゃんはどこか自信ありげに言った。
「知ってるのなら。ぜひ聞きたいよ」
「じゃあさ、約束してみて。現実世界に帰ったらすぐに私に連絡するって。私の連絡先、知ってるよね?」
咄嗟に「そんなの知らないよ」と言おうとしたけれど、嘘をついても見抜かれる気がして「ああ、うん、中学の時のがね」と答えた。
「現実世界にもどったら咲ちゃんに連絡したらいいの?」
「そう、戻ったらすぐに。約束してくれる?」
真剣な表情だった。
「わかった、約束する。もし戻れたらすぐに連絡するよ」
僕の返事を聞いて、咲ちゃんは満足げな笑顔を見せた。
その途端、銀河鉄道が急にぐんっ、とスピードを上げた。
「うわっとと、なんだ?!」
僕が困惑している中、ぐんぐん加速していき、窓の外の霧は勢いよく後ろに流れていった。ガタガタと車体が揺れて天井から下がっているランプが左右に大きく揺れる。
「ショウくん、もう1度、念じて! 帰りたいって! さぁ!」
大きな警笛の音が鼓膜を震わせる。
「わかった! やってみる!」
僕は再び帰りたい帰りたい……、と目を閉じて繰り返し念じ続けた。
心臓の鼓動にも似たピストンの音がどんどん加速していく。
そして次の瞬間、ガシャンッというガラスの割れるような音がした。
唐突に全ての音が止み、静かになる。
重力に解き放たれたみたいに、身体が浮かぶ感じがした。
目を開けると窓の外は真っ暗で、ランプの光が徐々に暗くなって消えていくところだった。
咲ちゃんの姿は向かいの座席から消えていた。
「約束だよ」
声だけがかすかに聞こえた気がした。
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