2-5
境内の中に入るとすぐ、2人をヨーヨーすくいの夜店で見つけた。
後ろに立った僕はプリキュアの瞳に開いた丸い穴から2人の様子を観察した。
「1回50円だよ、頑張んな」
と言ってこよりを差し出す屋台のおっちゃん。
さすが地元の祭り、格安だな。
「よーし、咲ちゃんどれ取ってほしい?」
「え、取ってくれるの?」
嬉しそうな表情を見せる咲ちゃん。
「もちろんだよ」
小学生の僕(ショウくん)はそう言うと、にへらっと笑った。
「んーとね、あの紫のやつー」
「よーし!」
ショウくんは色とりどりのヨーヨーが浮かぶ水槽の前に意気揚々としゃがむと、こよりを水につけないようにゆっくり下ろしていく。
僕はその姿を見て心の底でうまくいきますようにと祈る。
あ、いいぞ、針がヨーヨーの輪ゴムにひっかっかった。でも油断するなよ、そーっと上げるんだぞ、そーっとだぞー。
心の中でショウくんを応援した、けれど。
「それっ」
勢いよく引っ張ったせいでこよりが切れてヨーヨーが落ちてしまった。
「あーっ! あーあ、惜しかったねショウくん」
ほらー言わんこっちゃない。咲ちゃんもがっかりした顔をしている。
「ぐぬぬ。おっちゃん、もっかい!」
「あいよ」
2回目も同じようにダメだったけど、3回目に再挑戦した小さい僕は、今度はゆっくり引き上げて紫のヨーヨーをゲットした。
「やった! やったねショウくん!」
「うん! やったー! はい、紫のだよ、咲ちゃん」
「ありがとう」
ヨーヨーを渡して笑う。
「おめでとさん。はいこれはおまけ」
おじちゃんは小さい僕に緑のヨーヨーを差し出した。
「え、いいの? おじちゃんありがとう!」
なんて優しいおっちゃんだ。
しかも僕は見逃さなかった。あのおっちゃん、2回失敗するのを見てこよりをちょっと太いものに交換していた。
そんなことも知らずに呑気に咲ちゃんの前でへらへらしやがって僕のやろう……。
嬉しいような悔しいような感情が僕の中を駆け回っていた。
ふたりはヨーヨーをつきながら歩き始めた。
リンゴ飴を食べたり、射的をしたり、金魚すくいをしたり、お祭りのオーソドックスなメニューを制覇していった。
僕は夜店の陰に隠れてプリキュアのお面越しに、じっとそんな2人の様子を観察していた。
近くを通る幼稚園児がこちらを指差しながら歩いていたけれど、この際そんなことはどうでもいい。
2人とも楽しそうによく笑っていて、僕が心配することは何一つなかった。それどころか、とてもお似合いに見えた。
それが悔しかった。
だって、僕にはできなかったことだから。
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