1-5
僕は沙耶さんと彼氏(清楚系イケメン男)が歩いていくのを呪いの邪眼で見送った。
「あの子、京都の大学に通ってて、この時期はいつも帰ってきてくれるのよ。たぶん地元の子たちと遊ぶだろうから、ショウちゃんも一緒に行ってきたら? 出会いがあるかもよ?」
再び2人の行ったあとを見ると、やんちゃな感じの(チャラそうな)男女の(盛りのついた)グループが数人集まって(たむろして)楽しそうに話していた。
一方で自分の格好を改めて見ると、よれよれの安物Tシャツに穴の開いた(決してビンテージではない)ジーンズ、薄汚れたスニーカーだ。これであの輪に入れるわけない。
おばちゃん、ありゃどう見ても僕とは住む世界が違うリア充グループですぜ。と、またもや心の中で思ったことが口から出そうになるのをぐぐりと飲み込んだ。
「ほらほら、出会いが待ってるよ」
おばちゃんは好意のつもりなんだろうけどな……。
「あー、そうですね。あ、いや、うん、でも、今日は帰りますよ」
と、おばちゃんの顔を見ないように下を向いて答えた。
「そう? まぁそれはショウちゃんの自由だけど。……あ、そうそう、そういえば今年のお祭りは一味違ってお化け屋敷があるのよ。知ってた? どうやら聞いたところによると一流お化け屋敷師がやってるらしいわよ」
おばちゃんは僕に気を遣ってか急に話題を変えてきた。
「何ですかその『一流お化け屋敷師』って。聞いたことないですよ、しかも絶妙に言いにくいし」
「よくわからないんだけどね、一級建築士とか、一流のピアニストとか、そんな感じじゃない? たぶん」
適当すぎる。
「噂じゃ何年か前、お化け屋敷に入ったっきり本当にいなくなってしまった人もいるとかいないとかって話よ」
「そりゃ失踪事件ですね、警察呼ばなきゃ」
僕が笑い飛ばすと、おばちゃんは不敵な笑みを浮かべた。
「まぁ行くか行かないかは自由だけどね。お化け屋敷は今年の目玉だからね、踏破したら商店街で使える割引券がもらえるわよ」
割引券、その魅惑的な響きに僕の心はひっぱられそうになる。
「あ、いや、でもおばけ屋敷なんて、皆で入ってわーきゃー言うのが楽しいところ、僕1人で行ったら迷惑ですよ」
「ショウちゃんまさか、怖いの? お化け屋敷が」
「まさかそんなこと、あるわけないじゃないですか。子どもじゃあるまいし」
「じゃあ割引券ゲットしないとね! 本殿の方にあるからね。行ってらっしゃい」
おばちゃんは参道の奥の方を指さし、ニヤニヤした顔で手を振った。
僕に拒否権は残されていなかった。
これでもかというぐらいの作り笑顔を浮かべ「さらっと割引券手に入れて、また焼肉定食でも食べに行きますよ、はっはっは」と別れを告げると、本殿に向かってずんずん歩いた。
もうやけくそだった。
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