第3話 咲ちゃん

 夜の帳が降りて、辺りに虫の音が響く。

 お祭りの明かりや喧騒が遠くに感じられる。

 今日は月明かりもあって、2人の姿は雑木林の中からでもよく見えた。


 2人は神社の階段に並んで腰かけていた。

 おいおいおい、あんな近距離で、おいおいおい大丈夫か。


「あのね、ショウくん……」と咲ちゃんが口を開く。

「な、なにかな?」ショウくんがきき返す。


 僕は仮に、もし仮にだが。

 ありえない話だけれど、小学生ごときが、その、あろうことか、何か不純そうなことをしそうなら……いや、これはもし仮にの話だが。チューでもし始めようならだ。そんなこと無いだろうけど。


 いざとなったら飛び出してプリキュアの技でも叫びながら突撃して邪魔してやると決めていた。それはちょっと早すぎだろ、小さい僕。

 自分のことのようにドキドキして2人を監視していたその時だ。


 ボゴゴッ


 と、あまりにも場違いな、巨大なさつま芋を地面から掘り起こしたかのような音がした。

 音のした方をよく見ると、暗がりの中から地面から人影が出てきていた。


 果てして人は地面から生えてくるだろうか? そんなわけはない。

 じゃあ地面から生えてくる人影はな~んだ?


 皮膚の色は青みどり、目は片方どろりと落ちて、手は前に出しているものの手首から先はぶらりと垂れ下がっている。

 どこからどうみても映画とかゲームで見る立派なゾンビだった。


 なんで!? なんでここでゾンビが出てくるんだ!?

 月明かりの下、ゾンビはぎこちない動きで2人に近づいていく。


 お互いのことしか見えていないようで、2人は気付いていなかったが、さすがに近づいてきたゾンビの「うぅ~」という唸り声にそちらを向く。


「うわあああぁ!」

 ショウくんは驚いて後ずさりし、咲ちゃんは完全に固まっている。

 ああ、だめだ。

 このままじゃホラー映画みたいな展開になっちまうじゃねぇか!


 その瞬間、僕はゾンビに対する怖さよりもこのいい雰囲気を邪魔した奴への怒りの方が勝った。

 僕は全速力で藪から飛び出して2人の前に立った。

 2人はぽかんと口を開けてこちらを見ている。


「えと……プリキュア参上!!」


 いや、プリキュアはこんな登場の仕方しねぇだろ。というツッコミはさておき。僕はか弱い2人を守るために登場した。


 が、僕の思いもよらないことが起きた。

 もう一人、僕と同時に、違う藪から飛び出してきた人影がいたのだ。


 なぜかその人、仮面ライダーのお面をつけていた。


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