目が覚めたなら

目が覚めたなら


「お客様。こんなところにいらしたのですか」


 もうすぐ出航する船の展望室にいた私に船長が声をかけてきた。


「他の方々はもうご自分のキャビンでお休みになっていらっしゃいますよ? お客様もそろそろお戻り頂かないと」

「ええ、わかってます。でもその出航前にもう一回だけこの景色を目に焼き付けておきたかったのです」


 そう言って私は窓の外に目をやった。そこには違う港から出航する大型船の

姿も見て取れた。

 私は船長に尋ねる。


「あの大きさからすると長距離外洋船でしょうか?」

「そうですな。お客様くらいのお若い年齢の方は殆どあちらの船に乗船されてる、と聞きました。ああ、加速をはじめましたな」


 先ほどまで窓の外に見えていた大型船は一気に加速をすると私たちの視界からたちまち消えていった。


「あれは一体どこまでいくのでしょうか?」

「あの大きさですと……多分アルファ・ケンタウリ方面ではないでしょうか? ワープ航法が実現されたとはいえ何十年もかかる旅です。その為道中で人類が住めそうな星が途中で見つかったらそこに移住するそうですよ」


 船長はそう言うと、私と一緒に目の前の景色を見る。

 そこにあるのは人類が住めなくなるほど汚染されてしまった赤茶けた大地が広がる地球。


 私たち人類は今日、この死の星となってしまった地球から出て行くのだ。


「ですが、お客様は変わっておられる。新天地を求めるのではなく、地球の周回軌道上に留まり、この星が再生されるのを待つとは。この星にそこまでの愛着を持っておられるのはこの船の乗客のようなご年配の方ばかりかと思っておりましたが」

「昔、見たのですよ。この星がまだ青く輝いていた頃の映像を。私はどうしてもそれをこの目で実際に見たいのです。たとえこの大地に設置された環境再生装置でそうなるまでに何十年、何百年かかろうとも」

「なるほど。さて、もうすぐ出航時間です。そろそろキャビンに戻られて冷凍睡眠に入っていただかないと。私もこのアンドロイドから本体の航行コンピューターに戻らないといけないですしね」


「わかりました。では、船長。今度お目にかかる時には青い地球の上で」

「はい、では良い夢を――お休みなさい」


<了>

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