第5話




「あ、ミーヤ、ハール、ラナ、ベルテ、少しこちらに来て?」


 行ってしまったな、とどこか寂しい気持ちになりながらサランたちを見送った後、15歳組4人がシスターに呼ばれる。お互いに顔を見合わせても特に心当たりがある人はいないようだ。怒られるようなことはしていない、よな。ひとまず、と呼ばれたところに行くことにした。


「サランたちがここを出ていきましたから、今日からあなた方が最年長です。

 皆で協力して、小さい子たちを導いてあげましょう」


 シスターの話はそれだけだったようだ。いって大丈夫よ、と解散を伝える。最年長、なのはわかっている。だけど小さい子を導くとか、俺には無理だろう。そういうのはラナとかが一番適材。まあ、最低限役に立てるようには頑張るが。


そうだ、俺はどうしても気になっていることがあった。聞くなら今が一番いいだろう。小さい子たちの前で聞いて、わざわざ不安にさせるわけにはいかない。サランたちが、頑張って我慢したのだから。


「あの、シスター。

 一つお伺いしてもよろしいですか?」


「あら、ハール。

 ええ、もちろんいいですよ」


「シスターはご存知なのですか?

 ここを出ていった人たちがどうしているのか」


 僕の質問に戸惑うように視線を泳がせる。これは何か知っている? シスターなのだから、まあ知っていてもおかしくないか。


「教えてほしいんです。

 サランたちはどこに?」


「ごめんなさい、私もわからないのよ。

 毎年、16歳の子たちを見送った後聞かれるのだけれど、私は詳しくはわからないの」


「……え?

 本当に、ですか?」


 さっきのあの反応は一体何だったんだ。でも、俺の言葉にシスターはただうなずく。本当に何も知らない? でも、そうか。あんな風に話を聞いた後に、みんなが聞かないわけがないのだ。現に今だって、俺の周りには2人いる。ミーヤは、まあ一旦おいておこう。


「孤児院で、ここで私が面倒を見ることができるのは、16歳までだから。

 だから、そのあとのことはわからないの」


「そう、ですか。

 失礼しました」


 いいえ、と首を振るシスター。ラナもベルテも残念そうにしている。まあ、確かにこのタイミングで毎年聞きに来る、というのは納得だ。そしてそれでもサランがわからない、と言っているなら、シスターは毎回同じ答えを返しているんだろう。


「それでは私は行くわね?」


「あ、はい。

 ありがとうございました」


 それにしても、これで後一年。正確に一年ではないがそれは置いておいて。ここから先どうなるかわからない中、生きていくのか。うーーーん、うん。まあ、どうにかなる。って、そんなことを考えているうちに、シスターもラナもベルテもどこかに行ってしまっている。取り残された……。


「あ、ハール、ここにいたんだね」


 俺も戻ろう、と歩き出すと、ミーヤがひょっこりと顔を出す。いや、ここにいたんだねって、そもそもどこかに行ってしまったのはミーヤなんだが。うん、まあいいや。


「どうしたの?」


「あ、あのね、ハール今に言っておかなきゃってことがあって。

 その剣、力を込めてみるといいよ」


 きっといいことが起きる、とほほ笑む。いいことって何だろう。ひとまず、わかったとうなずくとうん、と笑顔で去っていった。その剣、ってこれしかないよな。それ以外は剣を持っていないし。今まで触れてこなかったのに、なぜ今?


本当に一体何だったんだ。……でも、いいかもしれない。そろそろやってみてもいいかもしれない、と考えていたし。不思議な感覚を持っているミーヤが言うならば正しい気がする。


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 早速、昼食後の時間を使って孤児院の近くにある山に入っていく。ここに来る村人はほとんどいないし、今日は孤児院の子たちも入ってこないことは確認済み。これで安心して試してみれる。神剣とよばれていたこの剣、何が起こるかわからないから慎重に行くことは大事だ。


 剣を握りしめて、腰元から抜く。ずっとこれを持っていたからか、初めはとても重く感じていたのに今では気にならなくなっている。まあ、成長して力が付いたというのもあると思うが。久しぶりに手に持ったそれを軽く振ってみる。おお、思ったよりも簡単に振れるようになっている。


 さて、どうしよう。きっとここに込める力は魔力。それは何となくわかる。でもどうやって込めるのが正解か。俺に思い浮ぶ方法は自分の手を通して剣に魔力を流す感じだけ。まあ、ひとまずやってみるか。何事も挑戦だよな。

 

 魔力、というものを意識するのは、あそこを出て以来初めて。孤児は普通魔法を使えない、それを知って使わないと決めたのだ。たとえお荷物の子供だとしても、魔法を使えるほどの魔力を持っていれば、せめて手元に置くらしい。国からの手当ても期待できるみたいだし。だから、人前では使わないと決めたのだ。それに使わざるを得ない状況になることもなかったから。


って、そんなことはどうでもいいんだ。時間は限られている。早くやってみよう。


 ふっと息を吐き出す。そして集中して魔力を剣に注いでいく。あ、これであっていたらしい。ちゃんと剣に力を注げている。……ちょっと待て、なんかかってに力持ってかれていないか? なんかっていうか、確実に! は? これどういう状況だ!? しかもなんか手が剣から離れない!

 怖い怖い!


 どうしたら!? と混乱しているうちに体から力が抜けていく。え、これまずい気がする。こう、貧血みたいな感じ。あれ、俺ここで倒れて死ぬのか?


「……ようやく、目覚めることができました」


 ふ、もう気を失っていいですかね? なんだかいきなり目の前に人が現れましたよ? しかも人とは思えない美しさを持った人。


「ああ、あなたが私の主ですね?

 こうしてお会いできる日が来ることを楽しみにして、……って主!?」


 ごめんなさい、俺にはもういろいろと無理です……。


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