第16話

 後半シャリラントの視点です。

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 これはどういうことだ? ここは確かに先ほどまでたくさんの鉱石があったはずだ。今そこはただの凹凸のある壁になっている。いや、ただのではないのだが、黒ずんでいる、と言えばいいのか……?


「急がなくては!

 ここは崩壊します」


 は? 崩壊、だと? 混乱している間にも確かに背後から、何かがガラガラと崩れていく音がする。とにかく今は逃げなければ。



「はっ、はぁ、はぁ……」


 一体何だったんだ……。なんとか逃げ出せたが、ダンジョンをでた次の瞬間にはもうダンジョンは崩れていた。危なかった……。もう少しゆっくりしていたら、ぺしゃんこになるところだった。ダンジョンの長が滅びれば、ダンジョンも共に崩れる。そういう関係性なのだろう。ということは、逆にダンジョンの長が滅びなければ、ダンジョンは崩れないのか?


「ハール、魔石を拾うならば拾っていきましょう」


 あ、うん。なんだか役にたちそうだから、もらっていくか。今は売れないとしても、いつかは売れるようになるはずだからな。それに、これがどんな働きを持っているのか知らないが、自分たち自身の役にも立つかもしれない。


俺の答えを聞くと、シャリラントは少し待っていてください、というと姿を消す。そして、本当に少しで戻ってきた。魔石とともに。


「え、今一体何が?」


「集めてきました。

 さあ、早くしまって。

 そして、私との約束を叶えて下さい」


 約束? 何かしていたっけ。全く覚えがない。


「ダンジョンに行き、神剣を手にしてもおかしくない状況になったら本当の名を教えてくれるといいました」


 あー、なんかそんなこと言っていたかも。え、今? こんなにすぐ? なんでそんなに急いでいるんだ? 確かにずっとダンジョンに行ってとは言っていたが、それは名をおしえてもらうことが目的だったのか。


「名前は特別です。

 名を交換して初めて、私たちは本当の主従になれるのです」


 え、今まで違ったの? そのあたりの基準よくわからないな……。


「私の自由度が上がります。

 それに、今まではどちらかというと共存、というよりハールの中に私が存在していた形ですが、名を交換した後は少し違います。

 私は私として存在できるのです」


 あー、なんかもうよくわからなくなってきた。今までで一番魔力も使って、もうへとへとなんだよ。こんな状態で、そんな難しい話されても理解できない。ひとまず、名を教えればいいのか?


「はい」


 まあ、確かにそんな約束をした覚えがある。それに今ならこの辺りに誰もいない。さすがに誰かに聞かれたらまずいし、俺にとっても好都合か。


「スーベルハーニ・アナベルク、だ」


「スーベルハーニ……」


「ただ、その名で呼ぶなよ」


「もう一つ、もう一つの名も教えてください。

 それだけではないはずです」


 もう一つ? もう一つも何も、俺はスーベルハーニという名前だが。……、もしかしてあっちの名前か?


「み、みと、弥登陽斗、だ」


 本当に久しぶりに口にした名。どうしてこんなにも緊張しているんだろうか。


「ああ、そうなのですね……。

 ようやくあなたの名前を知ることができました」


 そうなのですね、ってどういう意味だ。不思議に思っている中、シャリラントがほほ笑む。そして、本体である剣を地面に置いた。いつの間にあいつの手元に? そのまま流れるような動作でその剣の前に膝をついた。えっと、一体何をしようとしているのだろうか。頭も下げてくるし。


「スーベルハーニ・アナベルク、そしてミトハルト、あなたを私、ミベラの神剣シャリラントの主と認めます。

 どうぞ、これからよろしくお願いいたします」


「え、あ、えっとお願いします」


 どうして急にこんなことを、と困惑しながらもなんとか返す。その途端、俺とシャリラントの周りに風が巻き起こる。すると、自分の体から何か、いや魔力が引き抜かれるのを感じる。もうだいぶ魔力が減っていたのに、さらにぬくとかやめてくれよ……。


 ぐらり、と体が傾き、同時に意識が遠のいていくのを感じた。



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 おや、意識を失ってしまいましたか。あれだけ暴れたら無理もありませんが……。この方はいまだもろく、いびつ。『これ』が私の主、ですか。ふむ、なるほど、こう成長しましたか。


 私たち、神剣と呼ばれる7つの剣を作り出し早何百年か……。他の方たちには何度か主を与えたようですが、ミベラ様は2度失った後、私には一向に与えてはくれませんでしたね。私はほかとは異なる存在であるから、と。どこまでそれが本意なのかはわかりませんが。


 さて、ようやく目覚めることができたのです。好きにしたいところですが、今はこの主を放っておくのは得策ではないでしょう。私が今目覚めていられるのはこの方のおかげですから、またいなくなられては困るのです。


 ようやく実態を持つことができたのです、私が安全なところまで運んでは良いのですが、うーーん……。厄介なことが起こるのは必須。っと、ちょうどよくどなたかが来てくれたみたいですね。

 

 なら、私はおとなしくしていましょう。……さて、ミベラ様が私を起こしたとこで、一体何がおこるのか。あの方を救うことに、つながればいいのですが。


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