第15話

 

  

 なんだか少しばかり睨まれていた気もするが、今は構っていられない。外に出てきている奴は大方片付け終わったのだ。後はまっすぐにダンジョンに向かうだけ。


『ハール、もう厄介なので一気に行きましょう?

 リキートもいなくなり、もう辺りには人はいません。

 多少派手にやっても誰も見ていませんよ』


 うん、そうだね。俺も面倒だと思っていたところなんだ。同意した瞬間、明らかに自分の足の速さが変わる。魔獣ももう本当にいない。そして、今までとは違ってあっという間にダンジョンについてしまった。


『念のため、気を付けてくださいね。

 まだ中に残っているかもしれない』


 まだ残っている、ね。え、かもしれないって、逆にほとんど外に行ったってこと? な、なるほど。


『ちなみに、原則魔獣はダンジョン外ではダンジョン内よりも弱くなると言われています。

 なので、あまりダンジョン外には出ていきたがらないはずなのですが……』


 そんな仕組みになっているのか。それにしてもダンジョンって何なんだ? RPGとかあんまり好きではなかったから、あまりやったことがなかったんだよな。だからダンジョンのイメージはモンスターがわんさか出るって感じ。うん、ぼんやりした知識しかありません。


 さてさて、行ってみますか、ダンジョン。



 ここのダンジョンは洞窟のようになっていて、中に入るとすぐにひんやりとした空気を感じる。ここのダンジョンってこんな感じなのか……。すごく、きれいだ。きっと、中は薄暗く、重苦しい空気なのかと思っていたが、全然そんなことなかった。


「こちらは鉱石系のダンジョンなのですね」


「うわっ!」


 び、びっくりした……。急に姿を現さないでくれよ。しかもタイミング。でも、鉱石か。確かにいたるところに水晶のようなものが付いている。


「こういうのって持って帰っていいのか?」


「よいのでは? 

 今ここにいるのはあなただけ。

 そして、ダンジョンはいかなる人間のものにもなりませんから」


 まあ、ダンジョンを所有しようって気は起きないよね。領地内にあって利用しよう、ならまだわかるが。しかし、持って帰っていいならばありがたく持って帰ろう。俺たちにはもっとお金が必要らしいし。


「それをどこで売ろうとしているのやら……。

 まあ、いいでしょう。

 ハールがそれをお望みならば、私も手伝いましょう」


 すると、シャリラントが姿を変える。おお、これは採掘に便利そうだ。


「ですが悠長にしている時間はありませんよ。

 おそらく、このダンジョンの長は命がつきかけています」


 ダンジョンの長? それはつまりボスみたいな感じか。その命がつきかけている?


「詳しい説明はいずれどなたかがしてくれるでしょう。

 今は早く用事を済ませることを優先してください」


 あ、はい。すみません。取れやすそうなものだけをとる。持っている袋が小さくて、全然取れない! こんなことなら、もっと大きな袋を持ってくるべきだった。


 全然取れていない気がするが、まあいい。リキートの話だと、おそらくこれも伝手がないと売れないだろうし。ひとまずシャリラントの指示にしたがって進んでみよう。


 いっそ不気味なくらい静か。敵があふれていても厄介だが、これはこれで怖い。シャリラントもすっかり静かになってしまったし。途中何度か曲がり、そして少し下る。その先に『何か』はいた。


「もしかして、あれが?」


「ええ、このダンジョンの長です」

 

 長、つまりボスというくらいだ。巨大ゴブリンとか、そんなものを予想していたのに全然ちがった。その白い『何か』は丸まっていた。そして体が大きく上下している。呼吸があらいのだろう。呼吸の音まで聞こえてくる。


 俺たちが近づくと、その『何か』はゆっくりと顔をあげてこちらを見た。獣、のようである。頭はあるし、四肢もある。だが、コロッとした体にふわふわの体毛。かわ、いくはないが、到底あれらのウルフやゴブリンの大本となった、このダンジョンの長には見えない。


「ああ、やはり直前でしたか」


 なんの、そう聞こうとしたところで、不意に長の体がはじけた。物理的にはじけたわけではない。長の体を中心として真っ白な光が爆ぜたのだ。


「一体、何が……?」


「何が、ですか。 

 とにかくほら、これで長は消えましたよ」


 シャリラントが指さす先。そこにはもうあの長の体はなかった。かなり大きかったから、そこにあったら見落とすことはないだろうし。ただその代わり、といった様子で何かが落ちていた。


「これは……、カバン?」


「ああ、いいものを出しましたね。

 あれを持っておくと非常に便利ですよ」


 ひとまずシャリラントの許可は下りた。きっと触っても危険なものなのではないだろう。恐る恐る手にとる。それは手触りの良い素材でできたカバン、のようなものだった。さすがにダンジョンの長が出すものだ、ただのカバンではないだろう。

 もしかして……。


「ねえ、シャリラント、これって」


「アイテムボックス、と呼ばれるものです。

 見た目以上に入りますので、とても便利ですよ」


 やっぱり! ものすごくありがたい。今までは荷物を運ぶのにも、かなり苦労していたし。それに、これがあるなら行きにあまり取れなかった鉱石ももっととれる。


「ハール、何をのんびりしているのです? 

 早くここを出なくては。

 鉱石なんて、採れるわけがないでしょう」

 

 どういうことだ? そう思っているあいだにもシャリラントがせかす。とにかく従っておこうと、急いでその場を後にした。


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