第14話
きっとシャリラントが何か手助けしてくれたのかもしれないが、なんとか村の入り口まで行ける。ここから一人で逃げてもらえれば、もう少し自由が増える。どう考えても面倒でしかないのに、どうして俺はこの少女を助けようとしたのだろう。
「ここまで来たら、もう一人で逃げられるよな」
「え?
あの、あなたは……」
「じゃあ」
悠長に話している時間はない。とにかく早くダンジョンの方に向かわないと。一番の目的が果たされない。待って、とかけられた声に構っている暇はない。確かに助けたのだから問題はないだろう。
『ダンジョンに行くのですか?』
それを望んでいるんだろう? と聞けば嬉しそうな感情が伝わってくる。これ、なんだか嫌だな。互いの感情が駄々洩れだ。確かに言葉にしなくても伝わるのは楽だし、助かることは多々あるが、今後は考えないといけないな。
さて、武器を壊してしまった俺がどうやって再びダンジョンにたどりついたのか。答えは簡単。魔法と、シャリラントの力を使ったのだ。いや、本当に魔法って楽だな。特にろくな装備がない俺にとっては。
リキートも含めて目に入る限り人がいない、この状況だからこそできたことだ。それにしても、この一件が終わったら服について考えないといけないな。ちゃんと着込んで、この胸元が光ることを隠せれば、もっと自由に魔法を使える。どうにかしなけば。
『ハール、後ろからも来ていますよ』
「わかっている、よ!」
風もすごく使いやすいが、氷もかなり使いやすい。溶けてしまえば証拠は残らないから、気にせず使えるし。
「氷よ、鋭き刃となりウルフを襲え」
言葉を発する。鋭くとがったいくつかの氷が、手元に作り上げられる。すぐにザシュッと、氷がウルフの目を襲う。
精度も速度もかなり上がってきた。しかし、この呪文みたいのどうにかならないのか? どうにも中二病ぽくて恥ずかしい。そんなこと言っている場合じゃないのはわかっているんだが。
『ちゅうにびょう、ですか?』
気にしないでくれ。……こういう事故が嫌なんだよ。
『ですが、そちらの言葉を唱えなければ効率が下がりますよ?
私が常にハールから魔力を頂いておりますし、すぐに魔力が尽きてしまいます』
え、それどういうこと? シャリラントが俺の魔力を常にとっている、というのも聞き捨てならないし、呪文ってそういう効果があったのか? そういえば、だれかが、呪文を唱えるのかとかなんとか言っていたような?
『ハール、今は気にしないでいきましょう。
話はあとです』
あ、はい。すみませんでした。
「って、ちょ、待って!?」
なんで今、他向いていたやつらまでこっち向いた!? 一気には無理なんだが!
ゴブリンが走ってくる。え、めんどいな。魔獣って息しているか? 酸素ほしいよな?
一気に向かってきたゴブリンと、ウルフ。一定の位置にいるやつら、まとめて土の檻に入っとけ! 思った通り、俺を中心に円形にゴブリンの背丈ほどの土の檻ができる。そんで檻の中で思い切り炎を燃やして、と。
「炎よ、土壁の中の酸素を燃やし尽くせ」
『さん、そ……。
なかなか酷なことをなさいますね』
はい、きこえない。何となく炎が燃え尽きる感覚がするまで、ひとまず待つ。そのあと、ちょっとだけ檻を開ける。うわ、まだ生きている? こっちに来たんだが……。って。倒れた?
『もう生きていませんよ』
ほっ。これで生きていたら面倒だった。恐る恐る、自分側だけ土壁を壊していく。
「あれ、これなんだ?」
『ああ、それは魔石ですね。
さすがにこれだけの数を倒したら採れるでしょう』
魔石? それは何かと、シャリラントに問いかけようとした時だった。すっかり魔獣の数も減ったからだろう。かすかにリキートが戦っている音が聞こえた。
「あぐっ!!」
今リキートの声がしたか!? けがをしたのか? どうする、ダンジョンはもうすぐ。そこに行けば武器を手に入れた言い訳ができる。それを考えると、取りに行くべきだ。だが、その間にリキートが取り返しのつかないけがをしたら? やっと出会えた仲間、なんだ。
『ならば助けに行けばいいでしょう?』
……そうだな。答えは結局単純なんだ。でも、だからこそ選ぶことが難しい。せっかくシャリラントが背中を押してくれたんだ、素直に甘えよう。
「リキート!」
リキートの周りもかなりひどい状況だった。たくさんの死体があり、中には魔石、と呼ばれていたものになっているものもある。その中心で、リキートはウルフに腕をかまれ、膝亜をついていた。見たところほかに魔獣は居ない。
一気に走り寄り、ウルフを足蹴りする。かたっ! いたっ!
「リキート、大丈夫か?」
「……あ、ハール?
よかった、生きて、た……」
まずい、よな。かなり出血しているみたいだし、意識ももうろうとしている。ひとまず、安全なところに。
『力を貸しましょう』
助かる。さすがに似た体格のリキートを背負うのはきつい。ひとまず先ほどの少女みたいに、被害が少なそうなところまで送ろう。そう思い、入り口まで辿り着く。すると、先ほどの少女がいまだそこにいた。
「そこで、何を?」
「その人、けがしてるの!?」
俺の顔を見たときは何とも言えない顔をしていたのに、背のリキートに気が付くと、すぐに駆け寄ってくる。そして、あの時少年にやっていたように、リキートの怪我が特にひどいところに手のひらを当てた。少しすると、その部分が淡く光りだす。
「リキートのこと、頼んでいいか?」
おそらく、もうここまで魔獣がやってくることはない。そして、これもおそらくでしかないが、この少女は治癒が扱えるのだ。なら、リキートは彼女に託すのが一番いい。何か言いたげな瞳をこちらに向けた後、少女はかすかにうなずいてくれた。
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