第13話



 さて、行くと決めたはいいが、どうしようか。弓、は飛ぶやつがいたら使おう。ひとまずは地上のやつらをどうにかしないといけない。リキートも剣を構えているし、ちゃんと対応できそうだ。


「行こう!」


「な、なんなんだ、お前ら!

 武器なんて持って、正気か!?」


「正気だが?」


「なっ!?

 勝手にしやがれ!」


 あーあー、なんか言われてる。まあ気にしないし、もちろん勝手にするけど。なんかリキートに呆れた目を向けられているんだが?


『いいですか、魔獣には弱点となるところがあります。 

 例えばあのゴードウルフ』


 え、やっぱりあれウルフなの? という突っ込みを完全無視され、弱点を教えられる。ゴードウルフと呼ばれるこいつの弱点は目。いや、そりゃそうだろ!? たぶんほとんどのせいぶつ目が弱点だぞ?


『いえ、目が弱点にならない魔獣もいます。

 そもそもわかりやすい目がない魔獣もいますから』


 何それ。俺はシャリラントに教えてもらえるからいいが、何も知らないと勝ち目なかなかないんじゃ? うん、いま考えることではないな。


『ちなみにゴードウルフは首が鋼のように固いのでハールの持っている剣はもちろん、リキートとかいうものが持っている剣でも難しいです。

 確実に目を狙ってください』


 え、初めから難易度高くありません? あ、でもきっともう一つの方は簡単に倒せるやつだよね、そうだよね!?


『ゴブリンは、いうなれば全身が弱点です』


「は!?」


「え、ど、どうしたの、ハール」


「あ、いや、何でもない」


全身!? 全身が弱点って何それ。倒し放題じゃん。


『しかし、その代わりに相当傷に強いです。

 そうですね、ハールのお持ちの剣でしたらどちらが耐えられるか……』


 それ、俺勝ち目なくない? え、なんでけしかけたの、シャリラント。


『大丈夫です。 

 私が補助しますから。

 それにいざとなったらハールが魔法を使えばいいのです』


 ちょっと待って、補助ってまずくない? それに魔法、この服で使えるわけない。この状況下ならおそらくばれないとは思うが、でも胸元が光るのがうっすらと見えてしまうことが判明している。


「ハール、ぼーっとしてないでよ‼」


「あ、ごめん。

 リキート、ウルフの弱点は目、ゴブリンは全身どこでもいいがとにかく打たれ強い」


「え、あ、そうなの? 

 よく知っていたね」


 さて、これはどうしようか。話しているうちにどんどん住民は居なくなっていたらしい。魔獣たちの狙いがこちらに向いてる。はい、覚悟決めるしかないですね。


 リキートが右を行ったことで、俺は左を行く。左の方がウルフが多い気がするの気のせいか? でも俺の剣だとウルフの方が倒しやすいのか? まあどうにでもなればいい!


 木から作り、シャリラントの強化を受けた剣。下手な剣よりはおそらく強いが、でもやっぱり不利ではあるのだろう。というか、目!? どうやって狙う? いっそのこと矢で狙った方が早かったのでは? なんて言っている間にこっち襲ってくるー。


 襲ってきたウルフを剣で止める。うーわー、ちかいって。剣かじってるし、よだれ垂らしているし。


『手伝っても?』


 あ、はいお願いします。だって、これ絶対目を狙えない。無理。返事をした途端、剣からぶわっと強風が巻き起こる。その勢いに驚いてかじっていたウルフが剣から離れる。その間にウルフがより集まっている。ゴブリンはここから一定の距離を開けている。


 目、ね。うん、これだったら、うまくいったら一気に減らせるはず。ということで、シャリラント、また補助よろしく。


『ええ、かしこまりました』


 想像するだけで正確に伝わるの楽だわ。それに風ならちゃんと見ていなければ、何か起きた、くらいで済むはず。剣をふるう高さ。そして速さそれだけを考える。風はシャリラントに任せればいい。


 ぐっと剣を構える。何かを感じるのか、ウルフがじりっと構えた。腰を落とし、剣を水平に構える。刃先の高さはちょうどウルフの目の高さ。はっと息を吐き出す。そして一気に一周分剣をふるう。本当に、俺を囲んでくれたから都合よかったよ。


 シャリラントの補助ももちろん完璧。おかげですぱっと切れてくれた。バタバタと倒れていく仲間の体に、残ったウルフがより警戒度を上げるのがわかった。ゴブリンはなんだか喜んでいる?


『さて、これからどうしますか?』


 ま、ひとまず地道に倒していくしかないか。


『片目でもいいので、目を狙ってください』


 片目でもいいのか。なら少しは勝ち目がある、か? なんだか、面倒なことになったな。


 地道に剣をふるっていく。背後から襲っていくウルフもいるが、適度に近づいたところで足蹴にする。もちろん倒せはしないのだが、それでも一時しのぎくらいにはなる。いや、なんでこんなにいるんだよ。あーもう!


「だ、誰か、誰か、助けて……」


 今の……。聞き間違え、ではないか。ひたすらに剣をふるうと徐々にウルフが減っていく。なんとか別の場所に行く、道ができていた。ゴブリンはこちらにはあまり興味を示していない。ウルフの死体をあさっているのだ。


『助けに行くのですか?』


 まあ、これで死なれても後味悪いし。見た感じダンジョンもあっちの方にある。なら、少し様子を見るくらいいいだろう。


 一度聞こえたかすかな声、それだけを頼りに進む。リキートはまだ戦っているらしい。こちらから声をかけたら、また声を出してくれるか?


「誰か、いるのか?」


「……、あ、だれ、か。

 誰か、助けて!!」


 あっちか! やっぱりダンジョンの方か。逃げていく住民を追っていったのか、こっちの方はだいぶ魔獣の数が少ない。だからこそ、声の主も生き残っていたのだろう。そのあとも声をかけながら場所を探る。そして、やっと見つけた先、そこにいたのは。


「あ、あなた、が……?

 お願い、助けて。

 私では……」


 一筋、涙がほほを伝う。その少女の腕の中にはけがをしている子供がいた。頭をけがをしているのだろう。少女はその箇所に手を当てている。そして、その手は淡く光っていた。


「一体何を?」


「けがを、していたから、治さなくちゃって。

 でも……」


「俺にも、彼を助けることはできない」


 そういう助けて、なら俺にできることはない。シャリラントのためにもダンジョンに向かいたい。それにこのあたり、魔獣が少なくなっているといっても、ゼロではない。


動かないほど強力というシャリラントの認識阻害があって、魔獣の意識はこちらに向いていないが、いつまでもこのままではいられない。


「そん、な……」


「どうする?

 ここから出たいというなら手助けする。

 ただ、彼と共に抜け出すのは難しい」


 少年といっても、さすがに意識のない少年を背負い、少女を守りながら、魔獣をくぐり抜けるのは無理だ。それに側に人がいると不自由な面が多い。


「ごめん、ごめんね、チェシャ。

 ごめんね、力がないお姉ちゃんで……」


 ごめんね、と涙でぬれたほほを少年のほほに当てる。ああ、この少年はこの子の弟だったのか。兄弟、か。


「すみません、行きます」


 そっと少年を横たわらせると、少女は顔を上げてこちらを見る。まだ泣きそうだが、一応涙は止まったらしい。


「行こう」


 ぐっと手を引っ張り立ち上がらせる。隠れていた家から連れ出して、住民が逃げだした方向に進んでいく。できるだけ走って逃げる。


動き出した時からシャリラントの保護は消えている。襲ってくる魔獣をいちいち相手にしてられない。だが、先ほどよりもこちらの様子見をしている? あまり進んで襲ってはこない。


「あ!」


 まずい、ゴブリンを力いっぱい切り倒したら、剣が折れてしまった。これで目に見える武器は矢だけになってしまった。接近戦には向かない。


「あ、あの?

 大丈夫ですか?」


 もうどうにでもなれ! とにかく走り抜ける。ひとまず村の外にはもう魔獣はいないらしいから、そこまで送れば後は一人で逃げられるだろう。


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