第12話


 

 そして翌日からはひたすら目的地へ向かって歩くことにした。この辺り、乗合馬車もろくに通っていない。王都へ行くには自分の足を使うしかないのだ。


 食料問題もあり、俺は基本的に木で作った剣を武器に獲物をしとめていった。途中、見かねたシャリラントがリキートと離れたすきに、こっそりと強化してくれたおかげで、そこそこ仕留めやすくなった。それに、シャリラント監督のもと弓も魔法を駆使して作ることに……。

 初めてあんな風にリキートに突っ込まれた気がする。

 

 そして、途中寄り道をして海水を汲んできた。そう、干し肉を作るためだ。それを作るのに使った器に今度は飲める水を一杯汲んで、と。この国、井戸が普及してくれているおかげでかなり助かる。少し村人に食料とかわけなくてはっていう条件はあるが、そうするとお金を払わずに飲水が確保できるのだ。


皇国には恐らくなかったが、こっちには割と普及しているらしい。


 今回も作った干し肉と交換で飲み水を手に入れられた。よし、そろそろ王都に向かって歩かないと。


「そういえば、気になっていたんだけど。

 町と町の間って本当に人少ないよな」


「まあ、普通はそんなに移動しないからね。

 ……普通は野獣とか、そういうのに襲われるものなんだ。

 僕が初めて会ったときに、寝不足で倒れていたのはそういう危険もあって熟睡できなかったからなんだけど。

 ……ねえ、ハール。

 なんで僕らは一度も襲われていないのかな?

 山の側でもよく寝ているけれど、ハールと出会ってから毎日朝まで熟睡できている」


「な、なんででしょう?」


 うーわー、それ確実にシャリラントの力のおかげだよね。そうか、普通襲われるものなのか。でも、たしかに商団の時も見張りとかたっていたな……。


 そっと目をそらしましタ。さすがにまだシャリラントのことは言いたくない、だから言えることは何もない! まあ、ダンジョンとかでシャリラントをちゃんと手に入れないと、シャリラントのことを話すつもりはないが。だから今までのことは奇跡的、ということで納得してもらうしかない。


 リキートから少し疑いの目を向けられた時、前方から大声をあげて逃げてくる人々が見えた。え、何事? 今人いないね、って話していたばかりだよね。え、もしかして自分でフラグ立てていた?


「あれ、なんだろうね」


「なんだろう?」



「うわぁぁぁぁぁ!

 なんなんだ、あの生き物は!」


「おい、お前どけよ!」


「きゃぁぁぁ!」


 阿鼻叫喚。あれはすさまじいな。うーん、本当になんなんだ? ってのんきに首をかしげている場合ではなかった。


「あの、一体何が?」


「ば、バケモンが、バケモンがダンジョンから……」


 ダンジョン? ダンジョンから化け物が出てきたのか? こっちでの知識、特にダンジョンに関するものがないからわからないが、ダンジョンから化け物が出てくるのはやっぱり異常なことなのか?


「リキート、どうする?」


「どうするって……。

 王都に行くのにここを通らないとすごく遠回りになっちゃうかも。

 でも、何が起きているのか全く分からないんだよ。

 やっぱり安全第一ではあると思うけれど、でも……」


 リキートもわからないということは、一般知識ではないということか。さて、どうするか。ひとまず様子を見てみるのがいいか、迂回するのがいいか。


「行ってみよう」


「わかった」


 少し予想外だった。何となくリキートは慎重派だと思っていたので、迂回しようというと思ったのだ。でも、行くというならば異論はない。さて、何が起きているのか。って、本当にすごい人だな。



 元凶と思われる町になんとかたどり着く。人の流れに逆らって歩いたから、相当疲れた……。恐慌状態の人の威力って本当にすごい。さて、一体何が起こっているのか……。


 一歩、町に入るとすでに違和感。ここには恐怖と、その恐怖を生み出すものしか存在していない。もう一歩、踏み出す。すると、『それ』が見えた。


「ねえ、リキート。

 あれって……」


「魔獣、だね」


 やっぱり……。実際に見たことはないが、存在は知っている。なんか常に戦闘状態の獣って感じだ。グルグルとうなり声をあげながらよだれ垂らしている狼みたいなやつがいっぱいいる。後、あれはゴブリンか? 初めて見た。うん、お近づきになりたくはないな。


「ハール!? 

 なんか悠長にしているけど、そんな場合じゃないよ!?」


「え、なんで? 

 倒さないの?」

 

 今までの木で作ったただの剣なら速攻逃げ出さないとだけど、シャリラントが強化してくれたこれなら、まあいけるだろう。そう思い返事をするとは!? と素っ頓狂な返事が返ってきた。あ、そういえばリキートは強化のこと知らないんだった。


『ハール、倒していったらどうですか?

 ぎりぎりにはなると思いますが、きっとどうにかなります』

 

 そしてダンジョンにも! という声が聞こえる。あ、これダンジョンに入ってさっさと神剣を見つけたことにしてもらいたいんだな。まあ、うん、俺はいいが。


「行こう、リキート。

 行かなくちゃいけない気がする」


 ダンジョンがこんなに近くにあるのに、行かないでこの状態をキープしていたらシャリラントが暴走しそう。退屈しすぎて、いつか勝手に出てきてしまいそうな感じもしていたし。だったら無理にでもここでダンジョン行かせてもらった方が、まだ!


『失礼な。

 私はハールの意思に背くことはしませんよ』

 

 そうだとしても、主張が激しすぎるんだよ。なぜか努力して無視している俺の気持ちも考えてくれ。


「ハールがそういう風に言うの珍しい……。

 わ、わかった、いいよ」


 よし、巻き込んだ。言ったからには最後までつきあって……、もらったらまずい!? え、だってシャリラントは今手元。そして俺はそれを拾わなくてはいけない。あー、うん、まあ。それは後々考えよう。きっとどうにかなる!




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