第11話


「そういえば、いつも夜はどうしているんだ?」


「夜……。

 お金は多くないし、基本的には野宿をしているよ」


 それでいい? と聞いてくるリキート。それはもちろん大丈夫だ。もともと宿に泊まれるとは思っていない。


「俺もそんな金持っていないから」


「そっか、孤児院から来たって言っていたものね」


「ああ、でもその代わりにいろいろと餞別をもらった」


 寝るための布団、そして先ほどの弁当もその一つ。さて、俺の夕飯どうしよう。まあ、一日くらい食べなくてもいいけど。というか、この人は今までどうやってご飯を食べていたんだ?


 野宿にいいところを探すために、もう少し進むことにする。しばらく行くと、ちょうどいい大きさの広場が見つかった。ここで休むとともに、今後の行動についても相談することにしたのだ。


「ふふ、こうして誰かと寝たのって初めてだ」


「そうなのか?

 リキートって、いいところの出とか?」


 なんか、似たようなことをミーヤに言われた気がする。それを今度は質問側に回るなんて思わなかった。俺は孤児院でも、その前の旅でもほかの人と寝るのが基本だったから、そんなワクワクすることではないが、リキートはそうではないらしい。目を輝かせている。


「え!? 

 え、えーっと」


「あ、言いたくなかったら言わなくていい!

 無理に聞き出したいわけではないし」


「うーん、そうだな……。

 ハールには話しておくよ。

 僕はとある貴族の長男なんだけど、家に嫌気がさして飛び出してきたんだ。

 急に飛び出したものだから、大したもの持ちだせなくて」


 貴族の、長男。それは嫡男っていうやつではないのですか? いいのか、いやよくはないだろう。でももう飛び出してきた以上、戻ることもできないはずだ。それに自分で飛び出してきたなら、後悔もないだろう。実際、そういう顔をしている。


「かろうじて、愛用のこの剣だけは持ってきたけれど」

 

 そういって腰元にあった剣を抜く。いいものなのだろう、おそらくだが。


「その、どうして嫌気がさしたんだ?」


「うーん……。

 あまり確信あることではないから、できたら口にしたくないな。

 あ、あともう一つ。

 僕、魔法得意じゃなくて。

 弟とか周りに馬鹿にされること多かったんだ」


 口にしたくないこと……。気になるが、言いたくないなら聞くのもよくないだろう。それにしても、魔法を使えなくて馬鹿にされたのか。


「ハールも、馬鹿にする?」


「どうして?

 孤児院では魔法が使えないのが当たり前だった。

 でも、誰もお互いを馬鹿にしなかったよ」


 リキートは僕の言葉にきょとんとする。そして、一瞬の後思いっきり笑い始めた。その瞳には少しだけ涙が浮かんでいて、きっとずっととても悩んでいたんだろう、ということがうかがえた。



「それで、今後どうしようか」


「冒険者養成校に向かうんだけど、その前に入学金を稼がないと。

 ひとまず、ギルドに行って登録するのがいいかな」


「ギルド自体には登録できるって言っていたな」


「うん。

 ほとんどずっとあるっていう薬草摘みとかを地道にやって、ようやく入学金を稼げるかな。

 それで、入るにも試験があるからその訓練もしないと」


「試験って何をするんだ?」


「えっと、剣、魔法それぞれの適性を見て、あとは面接もかな。

 それくらいしか知らないや」


 ほー。やっぱりそういう適正を見られるのか。だが、最後の面接ってなんだ? 冒険者は荒くれものもいるよな。偏見かもしれないが。え、まさか性格見られるのか? ……うん、今考えても仕方ない。その場でどうにかしよう。


「詳しいんだな」


「家を出るって決めてから、必死に調べていたんだ」


 やっぱり、リキートって結構ちゃんとした人なんだ。向こう見ずで家を飛び出してきたのかと思えば、ちゃんと下調べを済ませてから家を出たらしい。おかげでこの後の行動指針が決まった。


「よし、ひとまず今日はもう休もう。

 それで明日からまた歩いて王都に向かうんだ」


「冒険者養成校は王都にあるのか」


「あはは、そうだよ。

 ハールは本当に何も知らないな」


 君と違って俺は調べる時間もすべもなかったんだよ。むすっとして答えると、なぜかまた笑われてしまった。


 おやすみ、とあいさつをしてそれぞれ寝転がる。寝不足といっていただけあって、すぐにすーすーと寝息が聞こえてきた。ちゃんと寝れたようで何よりだ。


「ハール」


 ふわっと姿を現したのはシャリラント。一応リキートが寝てから姿を現したということは気を使ったのだろう。まあ、いいか。


「どうした?」


「本当に私が姿を現してはだめですか? 

 その、あまりにも無防備すぎます」


「うーん、まだリキートがどのくらい信頼できるかわからないんだ。

 だから怖い……」


「そう、ですか。

 ならせめて寝ている間は力を使わせてください」


「力って何を?」


「認識阻害ですよ。

 それくらいはさせてください」


 う、シャリラントの微笑みって本当に破壊力あるよね。なんか負けた気分になる……。


「あ、ありがとう」


「あと一つ、許可していただきたいものがあるんです。

 姿を現さずとも、直接話しかけてもいいですか?

 それだけでもアドバイスはできます」


 直接……。それってあれかな? テレパシーみたいな感じですかね。まあ、それならいいか。ほかの人にはばれないなら。


『なら、そうしましょう。

 なるべく話かけるのを我慢できるようにしますから』


 早速ですね! やっぱり変な感じはするけれど、まあきっと慣れるだろう。安心して寝られる環境は整ったようだし、ゆっくりと眠らせてもらおう。


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