第10話
みなさん、こんにちは。ハールと言います。俺は今猛烈に困っています。いや、本当に。え、でも俺これ悪くないよね? なぜか地面に転がっていたこの人が悪いよね!?
はー、とりあえず意識を取り戻してもらわないことにはどうしようもない。追加で攻撃してしまったのは確かな気がするし、このまま放置というのもまずいよな。……揺らすか、やっぱ。
「ん、うんんん」
あ、揺らす前に声出した。ど、どうなる。このまま目覚めるんだ。そして、快くここを去らせてくれ。
はらはらしながら見守っていると、うっすらと瞳を開けた。大丈夫、かな?
「あれ、僕……」
「だ、大丈夫、ですか?」
「あ、うん、たぶん。
寝不足と空腹と、いろいろあって……」
あああ、またフラって沈みそうになっている。空腹って言ったよね。し、仕方ない。
「これ、食べるか?」
差し出したのは孤児院で餞別としてもらったお弁当。ぎゅうぎゅうに詰められたそれに愛情を感じる一品だ。今日どうするか決めたら食べようとしていたけど、背に腹は代えられない。
「い、いいの?
ありがとう……」
線が細い少年と思っていたけれど、やっぱりひどくおなかがすいていたようで、すぐに中身を食べきってしまう。せっかくのお弁当なのに、と残念な気持ちになったけれど人命には代えられない。
「すっごくおいしかった!
本当にありがとう」
「元気になったならよかった。
俺はハールっていうんだけれど、君は?」
「あ、えっと僕は、リキート、っていうんだ」
「リキート、ね。
君はどこから来たの?」
「え、えーっと……」
なんだかあたふたしている。どこから来たか聞いただけなのに。そんな言えないところから来たってこと? いや、言えないところってどこだ?
「あ、あのハールはどこから?」
「俺?
俺は向こうの方の孤児院から来たんだ」
完全に質問に質問を返してきたが、ここは答えておこう。険悪になっても面倒だ。そして、言いながら向こうと歩いてきた方向を指す。正確には違うが、まあ大体はあっているだろう。
「孤児院……。
ちなみにどこに向かうところ?」
「どこって、目的地は特にないよ。
ただ、何となく歩いている」
何となく!? ととても驚いた様子のリキート。そんな変なこと言っていないと思うんだけれど。あんな急に出ていけと言われ、しかも自分の思うままに進むのがいいとか言われたら、目的地なんてあるわけない。
「あ、じゃあさ、ハールも居場所がないってこと?」
居場所? 確かに居場所がないというのは間違っていない。今までずっといた孤児院を出ちゃったし。だが、なんで急に居場所の話に? この人、もしかして変わっているのか。それにしても、「も」か。
「まあ、そうかな?」
「じゃ、じゃあさ!
僕と一緒に冒険者養成校いかない!?
一人じゃ心細くて……。
ハールは僕の命の恩人だし、一緒にいてくれたら心強いなって、その……」
おお、急にテンション上がったな。そして最後は下がった。なかなか感情が忙しそう。というか、その話に命の恩人関係ない気がするんだけれど突っ込むまい。それよりも気になることがある。
「冒険者養成校って?」
「あ、えっと、その名の通り、なんだけれど。
そうだな、ハールは冒険者ギルドって知っている?」
冒険者ギルド自体は知っている。商団で旅をしているときに、危険なところを通るからと雇ったことがあるのだ。なのでひとまずうなずく。
「冒険者ギルドは誰でも登録できるんだけど、上のランクに行くには伝手が必要なんだ。
下位のランクは伝手がないと、基本的にはダンジョンとかで採ってきたものを売れないから。
上位のランクじゃないと受けられない依頼があったり、同じ依頼でも雇う値段も違ったりするんだ。
そして、上のランクになるための条件の中には、稼いだ金額の指定もある。
それに、冒険者として生計を立てるためには、ランクは上な程いいんだ」
お、おお。一気にしゃべり始めた。それにしても、何それ。イメージとして冒険者ギルドは身分がはっきりしない人の救済でもあると思っていた。それこそ、孤児とかのね。そして上のランクに行くためには純粋に力だけあればいいんだと思っていたのに、実際はそんなに権力主義なのか。いやー、夢がない。
「それでね、突出した才能、そして伝手がない人の唯一の救助策と言ってもいいのが、冒険者養成校なんだ。
そこを卒業すると、自動的に伝手がないと上がれない上のランク、Dランクになれる。
Dランクまで行けば、かろうじて伝手がなくても買い取ってくれるところは見つけられる。
だから、僕は冒険者養成校を目指しているんだ。
それともう一つ、理由はあるけれどそれはまた今度で」
結構ちゃんとした人だった、リキート。初対面が倒れている姿だったから、かなり行き当たりばったりな人なんだと勘違いしていたけれど。それにしても、冒険者か。まあ、もともとダンジョンには行く予定だった。それに、ほかに職業の当てもない。なら、いいかもしれない。
それに冒険者をめざしているくらいだ。俺が一緒にいることで、迷惑をかけることは少ないと、そう思いたい。どのみち一人ではいろいろ限界があたし、この人が司教の言っていた人だと信じたい。
「いいよ、一緒に行ってあげる」
「本当に!?
やった!」
そこまで喜んでもらえるとは。うん、きっとこれが正解だろう。
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