第17話



「そんなの知りませんよ!」


「だが、お前らが好き勝手暴れたんだろうが!」


 ん、なんだか騒がしい? えっと、俺は何をしていたんだっけ。まだ状況はよくわからないが、いったん目を開けてみる。あれ、なんで俺は寝て……、ああ、思い出した。あのまま気を失っていたのか。


「あ、ハール。

 目が覚めたの?」


「リキートか……」


「まだ辛そうだね」


 ああ、まだ体が重いし、だるい。絶対、最後のシャリラントとの契約のせいだ。神剣からシャリラントを目覚めさせたときも魔力をとっていったくせに、追加でとられるなんて。しかも、ああなるってわかっていて、あのタイミングで言い出したのもなかなか性格悪いだろ。


『失敬な。

 あなたが言いづらいだろうと、周りに誰もいないあの状況で聞いたのですよ』


 いたのか。まあ、確かにその気遣いはありがたいが。っと、そうだった。


「リキート、けがはもういいのか?」


「あ、うん。

 ハールと、あとあの女の子のおかげで何とか」


 あの女の子、と示した先には覚えがある少女が。たしかにリキートを託したが、ちゃんと助けてくれたようだ。ありがとう、と頭を下げるが、なぜかずっと睨まれているんだよな。


「おい、目覚めたのか。

 ほんとになんてことをやってくれたんだ!」


 え、急に何の話ですか? そういえば俺が目覚めたときも、なにか言い争っていたな。ここはひとまずリキートに聞くのがいいだろう。


「なんの話?」


「なんか、ダンジョンが崩れたのが僕たちのせいだって怒っているんだ」


「……は?」


 いやいやいや、別にダンジョンに攻撃加えてないからな? ダンジョンは勝手に自滅しただけだし。なんなら村救ったくらいじゃない? ほかの人たち逃げる中、はびこっていた魔獣倒したし。


「あの、お言葉ですが、どちらかと言えば僕らはこの村を救ったと思うのですが。

何を根拠に俺たちのせいだと言っているのですか?」

 

 あのまま魔獣がはびこる村で暮らしたかったのであれば止めないが。一度ダンジョンへ行き、シャリラントを手に入れる口実が欲しいっていうのが目的だったから、今度はもう助けない。


「だ、だが!

 俺たちが逃げたときはまだ、ここまで村は崩壊していなかった!

 それに、ダンジョンも……」


「いや、あなたがたが逃げた後魔獣が壊していったんですよ。

 もしかして、魔獣が家などは避けて攻撃してくれるとでも思っていました?

 ダンジョンに関しては勝手に崩壊していきました。

 確かに俺は一度中に入りましたが、攻撃はしていません」


 入っていない、と嘘をついて採ってきたやつを見つけられても困る。だから素直にそういうと、なぜか憎々し気にこちらを見る。本当に面倒な。


「ハール、わざわざ煽らないでいいよ……」


 え、煽っていた?


「とにかくこっち来い!

 せめてあいつらの死体処理を手伝え。

 それで手うってやるよ」


 え、なんでそんな許してやる、みたいな言い方なの? 俺たち別に手伝う義務ないんだけど。まだ本調子でもないし。


「いいからこい!」


 はいはい、もう面倒だな。手伝えばいいんだろう。腰を上げると、リキートが心配そうにこちらを見ている。まあ、それくらいならきっと大丈夫だと笑うと、しぶしぶうなずいた。


「本当にひでぇな。

 おい、お前らは散らばっている死体をこっち集めてこい。

 いいか、何か盗もうとするんじゃねぇぞ」

 

 もうそんな気力もない。本当に面倒だから、さっさとやることやってここを出よう。リキートも手伝ってくれている。それにしても、あの時は気にしている余裕なかったけど、ひどい匂いだ。


「おーおー、面白いことになっているぜ」


「本当だ。

 なあ、せっかくだもらっていこうぜ」


「な、なんですか!

 やめてください!」


 なんだ、一体? 明らかに柄が悪い声が聞こえてくる。それに叫び声も。いや、本当に何事? 声の方向を見ると、剣や弓などの装備を持った男性が三人ほどいる。一体何なんだ。


「行ってみる?」


「うーん、気になるけど、俺らには関係ないし……」


 見ていると、その男たちが何をしているのかがわかってきた。要は獲物の横取りだ。


「おめーらじゃ、ろくに売りさばけないだろ。

 俺たちがありがたくもらっておいてやるよ」


「そーそー。

 おめえらは死体の処理をせずに済むんだ、泣いて喜んだっていいんだぜ?」


「こ、これは私たちの大切な収入源なんです!

 や、やめっ」


「はっ、うっとおしいな。

 俺らを誰だと思っていやがる」


「Cランクパーティ、ガルシオンだぞ」


 なんか、絵にかいたような小物って感じだ。Cランクパーティというには、おそらく冒険者なんだろうけど、こいつらみたいのがCランク……。まあ、俺らには関係ない。ないが、なんかむかつく。あれを倒したのは俺なのに、どうして次から次へと横取りしていくんだ。


ここの人はむかつくが、大事な収入源なんだろうと思えたし、まだ我慢してもいいと思った。だが、な。


「あの、やめてもらえませんか。

 それ俺たちが狩ったやつなんですが」


「あー、兄ちゃんたちが? 

 そりゃすげぇ。

 ま、どうせ死にかけのやつにとどめ刺したくらいだろうけど。

 いいか、お前らにはこれは宝の持ち腐れなんだよ。

 こんなちいさなところにいたら知らないだろうが、魔獣の素材をいい価格で売るのに、『伝手』がいるんだよ。

 お前らじゃ売れないってこと」


 残念だったな、と高笑いする男たち。はぁ、めんどい。頭叩いてくるのもやめてほしい。むかつくな……。そんなことはリキートから聞いて知っている。だから現段階では特に俺たちは必要にしていない。だが、ここの人たちには有益なものなんだろ?


「なあ、いい加減にしてくれない?」


「っ、なんだよ!

 こんなちっせぇ村に住んでいるやつがよ!」


 どん、と強くたたかれる。だから、まだ本調子じゃないんだって……。簡単にバランスを崩して後ろに倒れる。それをとっさにリキートが支えてくれた。


「おい、さっさと行こうぜ。

 ここ、魔石も取れないくらいのダンジョンだったみたいだし」


「ちっ!

 おい、命拾いしたな。

 次会うことがあったら、覚えてろよ」


 最後の最後まで見事に小物間漂う言葉、いっそお見事だわ。うん、面白いもの見せてもらったと思うことにしよう。


「もう、もうダンジョンが、ないのに……。

 最後の収入源すら、奪われるなんて……」


 ああ、どうやら結局獲物は奪われてしまったらしい。本当に切れやすかったのは一人だけだったということだろう。でも、散らばっている分は特に手を付けなかったらしい。ましと思うべきか、いっそたちが悪いというか……。


「もう、お前らも出て行けよ……」


 勝手を言いまくっていたこいつらにも、それなりに頭に来ていたが先ほどのを見ていたらなんか許してあげよう、って気になれた。しかもそんなに疲れをにじませた声で言われてはな。ここで言い争っても無意味だし。


「行こうか、リキート」


「え、でも……」


「いいから」


 少し無理やりになってしまったが、一応うなずいてくれた。今はもう早くここを離れたいという思いが優っているから、それを汲んでくれたらありがたいです。


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