第11話
さて、今は朝食を食べ終わり一息ついたころ。扉がノックされて開けてみると、そこにいたのはしっかりとメイド服を着こんだ女性。あなた、誰ですか?
「スーベルハーニ皇子、お迎えに上がりました」
え、お迎えですか? いや、本当にどういうことだ。
「あの、誰ですか……?」
「カンペテルシア皇子のメイドでございます」
カンペテルシア、皇子? いや、本当にどういうことだろう。……、あ、もしかして前に言っていたやつですか?
「すでに教師の方がいらっしゃっております。
お早く準備を」
「え、あの、えーっと」
どうしよう、と思っていたらなんだかいつの間にか準備が整っておりませんか?今は兄上もリヒトもいないし、誰もこの人に言い返せないよね……。なんだか心配そうにこちらを見てくれているけれど、動けないみたいだし。
あきらめてカンペテルシア様のところに行くことにしました……。
「遅い、いつまで僕を待たせる気だ」
「ま、まあまあ、落ち着いてください皇子。
始めましょう」
カンペテルシア様の部屋だというところに入ると、そこには椅子に腰かけたカンペテルシア様と教師であろうおろおろとした、気弱な雰囲気の男性がいた。いや、ここ広すぎませんか? 何これ、本当に一人用の部屋なの?
「さあ、こちらに来て下さい。
あなたがスーベルハーニ皇子ですね?」
「あ、はい」
「初めまして、私はダイシリト・キフトと申します。
カンペテルシア皇子の家庭教師を務めております」
あ、やっぱりこの人が教師でしたか。カンペテルシア様の隣にあった席を勧められると、すぐに授業が始まる。きっと僕が来るまで待っていたのだろう。
「では、まずはカンペテルシア皇子にとっては復習、スーベルハーニ皇子にとっては確認でこちらの問題を解いてみてください」
出されたものを見ると、そこには問題が書かれていた。分野は一つだけでなく、いろいろ混ぜているようだ。確かにこれなら手軽に実力が見れそう。
ということで、僕に勉強を教えてくれているリヒトのためにも、そして兄上のためにも失敗するわけにはいかない。集中して問題を解いていくと、そんなに難しくなく、量も多くなかったためあまり時間をかけずに解ききることができた。
カンペテルシア様はどうなのだろう、と横を見ると、全然進んでいない。なのにもう集中力が切れてしまったようで、ペンで遊んでいる。この人、本当に僕よりも年上なの? その眼鏡、見かけ倒しすぎる。
「おや、もう解き終わったのですか?」
「あ、はい」
見させていただきますね、というと僕の前から問題をとる。そして採点を始めていった。
「な、なぜもう解き終わっているのだ」
「いや、あの、なぜといわれましても……」
解けたから、としか言いようがない。というか、僕が勉強をしだしたのってかなり最近だけど、この年まで教師が付いたことがなかったのかと驚かれた。つまり、本来はもっと前からつくものなのだ。そして、この皇子。母親は皇妃で公爵家の出身。つまり後ろ盾は十分だから、きっともっと前から教師がついていたはずなんだよね。なぜ、まだ解けていない?
「それは皇子が真面目に勉強をなさらないからですよ。
ご興味を持ったものは感心するほどの集中力を発揮されますが、それ以外は全くですから。
さあ、皇子は解けましたか?」
「うぐ、も、もうよい」
そして半分ほどしか埋まっていないものを先生に押し付ける。先生はそれを苦笑いして受け取り、採点をした。
こんな状態なのになんでこの皇子は僕を呼んだんだろう。勉強なら、とか言っていたからきっと勉強はできるんだと思っていたんだけれど。
「まあ、スーベルハーニ皇子の圧勝ですね」
や、あの、どうしてそんなにもにこにことした笑顔でそんなことを言っているんですか? ほら、震えているじゃないか。
「スーベルハーニ皇子はどなたに教えていただいたのですか?」
「僕は、リヒ、ベルティア・ゴーベントに」
「リヒベルティア・ゴーベント様ですか!?
なるほど、それは素晴らしい」
え、なんで急に瞳をきらめかせたんですか? そしてリヒトってそんなに有名なの?
「リヒベルティア・ゴーベント様といえば、我々教育に携わる者からしてみれば一度はお会いしたい方!
学園在学時から今までにない視点での切込みで注目を集め、学園教員にも推薦されたのにそれを拒んだ無二の方ではないですか」
「そんなにリヒベルティアは有名なのですか?」
「ええ、ええ。
学園の教員といえば、我々にとっての最高峰ですから」
少し気弱な人なのかな、といった様子だった先生が一変。ものすごく饒舌になっている。これ、いつも通りなのかな、とカンペテルシア様の方を見るとぽかんとしている。やっぱり珍しい状態なのね。
「ごほん、失礼いたしました。
ですが、そうですか……。
本当はこの問題はスーベルハーニ皇子のご年齢では難しいかも、とも思っていたのですが、それならば納得です」
「ず、ずるいぞ!
そんなすごい人が教師についていたなんて」
「いえ、皇子。
それでもこの結果はスーベルハーニ皇子の実力なのです。
皇子も決して頭がお悪いわけではございません。
集中すれば、きちんと理解できるのですから」
つまり、自分の努力不足だ、と暗に言われる。カンペテルシア様はぐっと唇をかむと、そうか、と小さく一言口にした。
「おい、もうお前は帰れ」
急に呼び出しておいてそれはないだろ、とは思うけれどここにいたいわけではないので、お言葉に甘えてしまおう。ということで安心の宿舎へ帰ります。
翌日、なぜか第一皇子であるキャバランシア皇子から贈り物と手紙が。中を見てみると、弟のやる気を引き出してくれてありがとう、との言葉とともに見るからに上質な勉強セットが入っていました。
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