第5話

その時から僕は変わった。

この指輪があれば僕は何でも出来る。

僕はことあるごとに指輪の力を使うようになった。


体育の水泳の時間で好タイムを出したり、陸上競技で周囲に圧倒的な差をつけて勝ったり、テストでカンニングをするのだって、ゆっくり流れる時間のなかじゃ余裕だ。

アクションゲームをやったって1人だけチートツールを使うようなものだ。対戦格闘ゲームでは余裕でネット対戦ランク世界一になれる。すぐに飽きたけど。


自分の為ばかりに使っていたわけじゃない。

例えばひったくりを捕まえたこともある。

お婆さんの鞄をひったくりバイクに乗って逃げる男を取り押さえた。

走ってバイクに追い付くのも成人男性を力ずくで取り押さえるのも指輪があれば余裕だ。

偶然、上の階の泰葉ちゃんがトラックに轢かれそうになったところを間一髪助けたこともあった。

彼女のお母さんにはとても感謝されて、マスクメロンを2個もらった。


一方で困ったことに、僕はだんだん他人と喧嘩をする事が多くなっていた。

佐藤たちと喧嘩した時の解放感が忘れられない。

学校の不良たちのほぼ全員と喧嘩をし、やがて相手がいなくなると町を歩き回り、手頃な相手を見つけては喧嘩を吹っ掛け、そして負かした相手の財布からお金を盗る。

お金が欲しかったのもある。

だがそれよりも相手が屈服し跪いて許しを乞う姿を見る。それが堪らなく気持ちいいのだ。


冴えなかった僕は今や学校ではカースト上位の人間だ。

彼女も出来た。沙織だ。

佐藤は僕に負けたあと完全に面子を潰された。

取り巻きは1人も居なくなったし、誰も彼のことを恐がらなくなった。

沙織はそんな佐藤を見て幻滅したのか、もともと権力を持った人間に魅力を感じるタチなんだろう。

佐藤を見限ると僕の彼女になりたいと言った。

性格はともかく顔は良かったから僕は彼女を受け入れた。

2人で歩いているのを見た時の、佐藤の表情ときたら。

目に涙を浮かべて睨みつけてきたが、僕が沙織とこれ見よがしに手を繋ぐと、茫然としてヨタヨタ歩き去っていった。

サディスティックな快感で胸にいっぱいになった。







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