a1
「髙井。いつものやろうぜ。」
俺はこの意識を保ったまま新世界に来た。俺はこの意識が連続性を持っていることから、脳からの接続を行っていると認識できた。この世界では人間の抽象的な思いや言語まで読み取り、コードとして走らせてくれるようだ。おかげで俺たちはいつものルールでポーカーに興じることが出来ている。
oXz39a「A♤2♦3♧4♥5♤」
1c57Bz「4♦5♦6♦7♦9♤」
「惜しかったんだけどなあ。」
「ブタはブタだ。」
いつものように軽口を叩きながら髙井を悔しがらせる。俺の勝負している相手は紛れもなく髙井で間違いないし、変わらず分かりやすいレイズを張ってくる。
「この世界なら頭痛もないし集中できたとおもったんだけどなあ。」
確かに髙井は以前よりも強くなっているかもしれない。しかしこれはお互いに入院する前よりもだ。髙井は新世界でポーカー友達を作り、俺を打倒するため寝ずに腕を磨いてきたらしい。
「橋田のことも招待しておいてやるよ。」
「それはどうも。」
俺は食事を忘れて勝負に没頭した。
「橋田ぁ。来たばっかりだと味気ないだろう。旨いコードを書くシェフを紹介してやるぜ。」
新世界に来てから俺は高井と勝負するほかに懐かしい名前とテキストを交わしただけであった。髙井オススメのカツ丼というものは現世のカプセルよりも随分と満足感がある。これが腹を満たすという行為だったのであろうか。
「最近は脳を接続してきたり両方の世界で生きようとしたりするやつがいてさあ。俺たちのこと『脳ナシ』とかいって馬鹿にしてくるんだ。」
「お前は元々能無しだろ?」
「信用があるから心の底から言ってないのは分かる。でもここでは軽々しく口にしないほうがいい。」
高井が真剣な顔で警告してくれているように感じられた。そもそも自分の手術が成功しているのか確かめる術もない。新世界では差別される側の『脳ナシ』になってしまったのではなかろうか。髙井と別れた後、自身を襲う睡魔がプログラムされたものでないことを祈りながら俺は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます