五章 暗闇より希望の光 その6
「ああ〜、…聞こえるか? 東武国の国民達。」
東武国中の人々の頭の中に蛇光の声が届いた。
「余は東武国の守り神、侍大蛇、宮地 蛇光である。」
「おお、戦乱の収束に貢献したあの…。」
「異国から我々を守った英雄。」
「そんな偉大なお方の声が…。」
「聞こえるなんて光栄の極み。」
「蛇光様、万歳!」
「蛇光様、素敵!」
「一体どのようなありがたい言葉を?」
もちろん一誠と括正の頭にも届いたので、二人は思わず立ち止まった。
「これが、蛇光の声? なんてプレッシャーだ。」
「そうだよ、括正君。しかし気配が感じない。何を企んでいる?」
すると、蛇光の声がまた全国の脳裏に響き渡った。
「余はメリゴール中を廻った。メリゴールの列強は怪人や同等の実力者が多い。東武国には強者はいるが、国を守ってくれる怪人はいない…いや、いるにはいるが天の失敗作と言ってもいい軟弱な怪人だ。」
「なんだと、蛇仮面! コラッ!」
括正は怒りで刀を振り回した。一誠は少し驚いた。
「括正君、割と怒りやすいよね。」
「東武国は戦乱の中でも海賊の標的にされ、地響きや災狼などの屈強な怪人の侵入と暴動を許し、赤の戦士という大悪党の手中に今ある状況だ。」
「誰が大悪党だ、蛇変人! 俺の英雄としての道のり知ってるだろうが⁉︎」
「いや落ち着いて! あんた人のこと言えねえじゃないっすか⁉︎」
括正が一誠を落ち着かせると、冷静に語った。
「まずいっすね。今の東武国は侍大蛇の言うことはなんでも信じる。あんたは不利な状況だ。」
「不利な状況?」
冷静に戻った一誠は括正に笑顔で語った。
「括正君、覚えとくといい。不利な状況というのは英雄にならない言い訳にはならないよ。」
そう言いながら一誠は静かにの合図をして、しばらくしてまた蛇光の声が聞こえた。
「余は今より革命を起こす。少し斬新で犠牲者は出よう。だが東武国を守るためだ。だが戦乱を生き延びた君達だ。耐え忍んでくれると信じている。しばし待たれよ。」
短かったが蛇光はこれで全国の呼びかけを終えた。
「い、一体何をするのですか?」
最も近くで蛇光の言葉を聞いていた幸灯は、横に倒れてお腹を抱えた状態で訊き出した。
「シャッ、シャッシャア! 言った通りのことだ!」
そう言いながら蛇光は右手を顔と同じ同じ高さに上げ呪文を唱えた。
「
「うわあああああああ! きゃあああああ! いやああ!」
増大した痛みで幸灯は転がりまくった。
「痛い! 痛いですう! うう、意識が…。」
幸灯の体から闇が溢れて、彼女を取り込み青い瞳の黒吸血鬼になってしまった。
「おお、上出来な闇だ。今頃国中の余が血肉の果実を直接与え食べた者が黒吸血鬼になっているが、貴様は格別だ。自分の弱さへの怒り。世界の理不尽への怒り。横暴な悪への怒り。それが憎悪となって貴様に力がみなぎってやがるぜ!」
蛇光が高らかに語ると、幸灯はうがあああ、と叫びながら闇と共に空の彼方飛びたってしまった。蛇光の言葉通り、幸灯を含む千人の黒吸血鬼が東武国中で暴れ出した。
「聞こえるぜ。吸われる血の音が。悲鳴が。悲しみが。怒りが。美味である。……ちゃんと見たいな。」
蛇光は巨大な蛇に変身して上に空高く首を伸ばした。
(ますます美味。これが本当の高みの見物という奴か。絶景、ぜ…)
「ようやく見つけたぜ。」
雲の上で一誠が魔法のじゅうたんに乗って、仁王立ちしていた。
「昔の英雄が余に何の用だ?」
蛇光が問いかけると一誠が堂々と答えた。
「侍大蛇、お前がまだいる世の中に俺は生きてるんだから、戦う他ないだろうさ。守りたい者があるなら、戦っていざ守り抜く。それが英雄だ。」
「ご立派なお言葉。だが手遅れだ。俺はもうこの国を汚した。一体おめえに何ができる?」
蛇光は挑発すると、一誠は落ち着いて答えた。
「俺の癒しの念なら一人ずつだが治せる。だがその前にお前を倒す。……お前を倒すのに剣も魔法も念力も必要ない。だがもちろん俺は抵抗するぞ。」
「ほー、一体どう抵抗…」
バコオオオオオオオン!
一誠の正拳突きが蛇の頭に直撃した。
「ぎゃああああああ!」
蛇はあまりの威力に途中で人間の姿に戻りながら、海の彼方へぶっ飛ばされてしまった。ぶっ飛ばした張本人はその後に叫んだ。
「拳で!」
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