五章 暗闇より希望の光 その7
(動け、動け、動け、動け、動け…)
「動けよおお、おめえよお! 空気読め、石ころが!」
括正は先ほど一誠と一緒にいた森の中で地面に座りながら、石ころに両手を向けながらけんか腰だった。
「なんなんだ、おめえよお! 浮けよ! くそっ!」
集中していた括正は力を抜いて、空を見上げた。
「一誠さんも人が悪い…僕が念力を使えるわけないじゃん。僕みたいな…。」
括正は思わずターバンの角がある位置を触ってしまった。
「…僕みたいな、軟弱な怪人が…。」
括正は下を向いてしまった。
(この角のせいで石を投げられたことは何度あっただろうか。この下半身のせいで何度僕は暴力を振るわれた。この見かけのせいで僕は何度いじめられた。)
括正は石ころの方を向いた。
「ありのままの僕を受け入れてくれなかった東武国だけど、僕にだって愛国心はある! なのに一誠さん…。」
「この石ころを触らずに動かすまで、この場を離れるなよ。」
一誠が括正と別れる前に言った言葉だ。括正はため息をついた。
「あんなこと言われたらな……従うしかねーよ。」
「もしかしたらもう会えないかもしれないから、頼む。最後のお願いだ。……後、括正君。君は失敗作なんかじゃない。特別な存在だ。君の役割と出番はこれからたくさんある! ……見落とすなよ!」
その言葉を最後に一誠は姿を消したのが数分前のことである。それを思い出していた括正は別のことが頭に浮かんでいた。
(幸灯……大丈夫だよね? 吸血鬼に襲われてない、よね? ……血肉の果実なんか食べてないよね? ……だ、大丈夫だ。僕の未来の女王陛下だぞ。そんな誘惑に陥るわけないじゃないか…。多分…。)
・・・
・・・
しばらく経ってからのことである。一誠は獣の区にいた。その場には黒吸血鬼の呪いを除去された者が気を失っていた。
「これで999人目を苦しみから開放できた。にしても色々な奴に襲われて大変だったな……おかしいな。蛇光が伝説通りの悪の美学を貫く男なら、ちょうど千人の犠牲者がいるはずだ。なのに最後の一人が見つから、ハッ! まじか! 灯台下暗しとはこのことだな。 美の区かよ。行かなきゃ。」
そう言うと、一誠は念力を使って美の区へ瞬間移動をした。移動した場所は破壊された村だった。そこに着いた途端、一誠は驚いてしまった。
「なんて数だ……。」
何十人もの命が血を流しながら倒れていた。目の前には特大な闇のオーラがあった。
「すまない。君達の悲鳴に気づけずに…。」
一誠は闇の塊をにらめつけた。
「消えゆく命の波動を隠す闇…蛇光直々の手下か? 姿を…」
一誠は腕を前ならえした。
「見せろ!」
そう言うと同時に両手を横に広げた。すると包まれていた闇は払いのけられた。そこには幸灯がいた。闇の正体が少女であることにい一誠は驚きを隠せなかった。
「なっ…。」
「ううううう、うがあああああ!」
暴走状態の幸灯は突然吠えると、ゆっくり一誠に歩みを寄せていた。
(俺も体力が少ない。この子を人間に戻すのはかなりの念力を使う。逆に命を奪うのはわけのないことだ。どうする?)
連続の移動で疲れていた一誠はしばらく険しい顔をしていたが、やがて微笑みを見せた。
「愚問だったな。俺の体は既に答えをわかっている。」
一誠は力を込めた。
「英雄は倒した数より、救った数により真の度量が測れる。」
それから一時間後のことである。
「うう…。ハッ!」
「ハァ、ハァ。お、目覚めたかいお嬢さん?」
地面に仰向けに寝てた幸灯を一誠は優しく声を掛けた。幸灯はゆっくりと座る体勢になった。
「あなたは…?」
「赤間 一誠だ。はじめまして。」
一誠の言葉には優しさがあった。
「赤間 一誠さん? あっ、知ってます! 清子ちゃんがお話したって言ってました。」
「清子ちゃん? 君はもしかして幸灯ちゃんかい⁉︎」
幸灯がはい、そうです。っと答えると息を切らしながら一誠の眼から喜びの涙がこぼれた。
(そうだったのか…。ああ、マダム。ようやく恩が返せました。よかった。括正君、清子ちゃん。君達にとっての希望を救えたよ。よかった。自分の信念…曲げなくてよかった。)
一誠はそう思っていると、幸灯はようやく周りの死体に気づいた。それと同時に彼女は悲しみの涙を溢れさせた。
「私もしかして…。」
「それに関しては想像通り。君は蛇光にまんまと騙されて、命をたくさん奪ってしまった。だけどそれは君が夢を諦める理由にはならないよ。」
一誠は優しく幸灯の肩に手を置いた。
「俺は残った力を使って君を今から括正君のところへ飛ばす。そしたらここでの悲劇を起こしたのは俺だと世間は認識するだろう。」
一誠は優しく幸灯に語りかけた。
「君は闇もあるけど、光も一級品。君の夢は目が覚めても消えない。」
一誠は笑顔で苦しそうに喋り続けた。
「これから君が進む道は長く険しいのは確かだ。だけど希望の輝きを信じ続けて。歩く準備はもうできているはずだ。さあ、見つけにおいで。」
そう言い残すと、一誠は念力を込め、幸灯の姿はこの場から消えた。しばらくすると人影が一誠の背後に現れたので、一誠は立ち上がりながらその者に話しかけた。
「やはり、生きてたか。さて、足掻いてみるか。」
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