四章 道化と軍師、そして狼 その10
獣の区の森の中にある団子屋で、とある二人の異国の者が茶屋で一服をしていた。括正が盗賊に襲われた後に括正を通りかかった聖騎士のクーマと宣教師のステイベンである。
「安いっすね、ステイベン殿。この地域のもの何もかも。経済的にどうなんすかね?」
クーマは素直に意見をステイベンに向けた。ステイベンは団子を一つ消化すると自身も意見を述べた。
「あまりよいとは言えんな。この国の政治はどうなっている? 全く、ミー達がわざわざ海を渡り来てやったというに、良きおもてなしがあってもいいくらいだ。」
この発言にクーマはうんうんと頷いた。
「全くっすよ。俺なんかめっちゃいい事を町娘に言ったのに、よくわからん違う生意気な女に何度も殴られたんっすよ。迫害だよ、迫害。おまけにあの後町を追い出されただけに留まらず区も追い出された。魚の区なんてこっちから願い下げだぜ。」
クーマは言える愚痴を吐き出した。
「俺の聖騎士活動の恩を仇で返しやがって!」
ステイベンはため息をついた。
「この国の武士道はどこに行ったのやら。ちなみにクーマ君、ユーはこの国に来てからどのよう聖騎士活動をしたのかね?」
「え?」
クーマはこのステイベンの質問に一瞬固まったが、答えは見つかった。
「反乱の鎮圧、魔物退治、ああ、そうだ。道が汚かったからゴミをどかしてやったぜ。ついでに道徳的指導だぜ。」
自信満々にクーマは答えると、仕返しのように質問を返した。
「そういえば、ステイベン殿はこの国で大きな成果あったっすか?」
「へ?」
ステイベンはこのクーマの質問に一瞬固まったが、答えは見つかった。
「ユーと同じ道徳的指導、権力者にも物申したぞ。」
(学のステータスが上のミーが美の区の松平の養子のガキに口論で負けたなんてとても言えんがな。)
ステイベンはそう思いながら堂々と答えた。仕返しのようにクーマに質問をした。
「そういやあの災狼がこの国に来て暴れ始めたという噂があるが、聖騎士として成敗しなくてよいのか?」
「え、あの、その……」
クーマは先程より動揺していた。
(何言ってんだこのおっさん、冗談じゃねえ! 奴とは違う国で遭遇したことあるが、勝てる気がしねえんだよ! 今まで何人の聖騎士や魔法使い、冒険者が奴の手に堕ちたと思っている? そのリストに載るのは御免だし、生き延びたとしても聖騎士キャリアに支障が出る! パスだよ、パス!)
「そ、そこで介入したら、この国の侍の面子に関わるってもんよ。敢えて関わらずに、倒してくれる侍がいると信じる。それが聖騎士としての俺の優しさよ。」
クーマは言い訳をすると、仕返しのようにステイベンに質問した。
「あんたこそ宣教師なんだから、魔法で侍サポートできるんじゃね?」
「ん? んん〜。」
ステイベンもまた脳で思考を回転させた。
(あんこら、あーん! 奴は誰にも躊躇なく噛みつく、危険な男。宣教師のミーでも容赦なく殺すぞ。却下だ。)
「ミーの目的は教えを説くことで、暴力サポートではナッシング。ミーの生き方に反する。」
ステイベンは必死で言い訳をした。すると、クーマは空を仰いだ。
「大志を持ってこの国にやってきた訳だけど、俺も男だ。この国でどうしても彼女をゲッチュしたい。」
クーマは正直に打ち明けると、ステイベンはある提案をした。
「だったら一旦祖国に戻って相手を見つけたらどうだ?」
「いんや、この国がいい。この国は誠心誠意尽くしてくれる女の子が多いと見た。従順で大人しい子はいいね。逆らえないし、何でも言うこと聞いてくれる。そうだ。この前声を掛けた女は歳をとりすぎてた。決めた。歳の差結婚がいい。……ん? 誰か走って来るぜ。」
団子屋が建っている道を幸灯が涙目で箱を持って走っていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
(もしもの時のために、清子ちゃんから傷直しセットもらっといてよかったです。早く戻らなきゃ。)
その姿を見て、クーマは満面の笑みを浮かべた。
(いい子めっけたー! 身寄りがなさそうだし、ぴったりだ。)
そう思ったクーマは走っている彼女の前に立ちはだかった。
「キャッ、何ですかあなた? どいて下さい。私は急いでいるのです。」
戸惑いながら言う幸灯は、横を突き切ろうとしたが、何度もクーマが通せんぼをした。
「今日はお前のラッキーデイだ。」
「そんなわけありません! 私の友人がアンラッキーデイなので自動的に私もアンラッキーデイなんですっ!」
幸灯はそう言うと、クーマの服装の特徴に気づいた。
「聖騎士の方ですよね? お願いがあります。私の友人を助け…」
「ピンポーン、俺は聖騎士。お前を花嫁に迎えに来たのさ。」
クーマはそう言うと話を続けた。
「お前はチョロそうで従順そうで意見を言えずに逆らえなさそうだからバッチリ合格だよ。」
クーマはそう言うとがっしりと彼女の両肩に両手を置いた。寒気を感じた幸灯は必死に抵抗した。
「離して下さい! 離して! 今急いでるんです!」
幸灯は振りほどこうとしたが、クーマはなかなか離さなかった。
「躾けが必要だな。俺の計画は聖騎士としてこの国に来て、絶対服従で自分の意見が言えないお嫁さんを見つけることだ。それがお前だ。さっさと俺に惚れろ。」
聖騎士のクーマはそう脅した。宣教師のステイベンはフォローした。
「素直にはいと言いたまえ。聖騎士の嫁は優遇された生活が約束されたも同然。未来の旦那に逆らってはいかん。」
幸灯はこの二人の発言にさらに寒気を感じた。
(何を言ってるのですかこの人達⁉︎ それ奴隷じゃないですか! 怖い怖い怖い! こうなったら…)
「えいっ!」
幸灯は思いっきりクーマの金的急所を蹴った。
「アッヒーン!」
直撃されたクーマは幸灯を離し、横に倒れてしまった。
「痛いよーん!」
それを見て、ステイベンは立ち上がった。
「なんたる罪深い小娘じゃ。聖騎士に手を挙げるなど…」
「お黙り!」
そう叫びながら、幸灯はたまたま地面にあった石を投げつけて、たまたまステイベンの金的急所に直撃した。
「アッヒーン!」
直撃されたステイベンはうつ伏せに倒れてしまった。
「急がなきゃ!」
幸灯はそのまま走って行った。
・・・
・・・
一方でバルナバは獣の区で四番目にに広い町にを襲っていた。家を破壊したり、挑む者を蹴散らしたりしていると、とある3人組が妙な動きと共にやってきた。
「おや?」
「「「どすこい、どすこい、どすこい。」」」
その3人はとても体格のいい力士だった。距離はかなりあったが、三人は名を名乗った。
「おではワラベエ。」
「おではキエダ。」
「おではレンタ。」
「「「おでたち仲良し三兄弟! 力士になった三兄弟! おめえを倒しにやってきた。」」」
そう言うとバルナバは高らかに笑った。
「あははは、三匹の豚ってか? かかってみんしゃい〜。」
バルナバは挑発すると、三人は躊躇なく身構えた。
「言われなくて、」
「この国のために、」
「おめえを倒す!」
「「「トリプル大八圭!!!」」」
三人は手から風の衝撃を同時に飛ばすと、一つの大きな衝撃となりバルナバに直撃した。
「うわああああ!……なんてな!」
バルナバはそう言うと爪を立てて大気を引っ掻いて衝撃を消した。
「「「なっ!」」」
三人の力士は驚きを隠せなかった。
「今の本気じゃなかっただろ? 押し比べしようぜ〜。」
そう言うとバルナバは腕を交差させ、ありったけの息を吸った。負けてはならないと三人の力士はさらに力を溜めた。
「「「トリプル大八圭!!!」」」
同じように衝撃が直撃する寸前だった。
「大空へ羽バタク獣王ノ咆哮!」
バルナバの口からより強力な風の勢いが飛び出し、あっさりと力士達の攻撃を打ち消した。
「「「ノーン!!!」」」
そのままバルナバの技は三人を呑み込み大空へとベクトルを変えて上に飛んだ。
「「「うがあああああ! がくっ。」」」
三人は意識を失い投下された岩のように降ってきた。
「愉快、愉快。だがスパイスがもうちょっと欲しいね〜。」
そう言うとバルナバは再び暴れ出した。
・・・
・・・
(ここは……うっ、体中が……痛くなくなっている?)
意識を取り戻した括正が最初に感じた感覚だった。目を開けるとそこには幸灯がいた。
「あ、括正! よかった、戻ったんですねー。」
括正は彼女を見た瞬間、両人差し指で幸のほっぺを突いた。
「うわぁー、何をするのです括正⁉︎」
「ここで何してるのー? 獣の区は危ないから離れなさいって言ったでしょー!」
括正はこのままお説教を続けようと思ったが、幸灯が手に持っていた傷薬の瓶が空っぽになっていたことに気づいたため、指を彼女の顔から離した。
「だけど僕を助けてくれたんだね。ありがとう。」
括正は幸灯にお礼を言うと、幸灯は笑顔になったと思いきや、急に聖職者とのいざこざを思い出し、自分を抱きしめて震え出した。
「ど、どうしたの?」
括正は心配そうに幸灯に尋ねた。
「聞かないで!」
幸灯は勢いよく叫ぶと、次は静かな声で話し出した。
「お願いがあります、括正。私をギュってしてください?」
「ギュー? ハグってこと?」
括正が訊くと幸灯は頷いた。
「なんでー?」
「命令です。」
幸灯はそう返すと、括正はゆっくり優しく彼女を引き寄せハグした。
「えへへ、括正のハグは癒しがあってひと安心です。」
幸灯は寒気が飛んで、いつもの元気が戻った。しばらくすると、括正は彼女を放した。
「僕は行かなきゃいけない。」
「本当は行くなと命令したいところですが、あなたは私に逆らうでしょう。人狼はあちらの方向に向かいました。」
幸灯はそう言いながら指を指した。括正は軽く会釈をすると、立ち上がりその方へゆっくり歩き出した。
「括正!」
幸灯はそう叫ぶと括正は振り返った。幸灯は喋り続けた。
「あの人狼さんは自分に誇りを持っていて強いですけど、括正も強くてかっこいいですよ。」
笑顔で言う幸灯に括正は笑顔を返して、森の道を走り出した。
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