四章 道化と軍師、そして狼 その11

(この銃で、災狼を仕留める!)

 武天はソレを持ちながら、白馬に乗ってバルナバを追っていた。

(質屋にあったパーツで改造した銃だが、負荷少なく使えそうだ。弾の数の心配はない…問題は威力。)

 白馬は猪突猛進に突っ走っていた。

(あの時の括正君の走った速さだと、もう既に災と鉢合わせているはずだ。旅人の目撃情報はおそらく鉢合わせが推定される時間帯の後……括正君はもう…。)

 武天の眼から一粒の涙が溢れた。

「侍として初に弔い合戦というわけだ。」

 しばらく森林を避けながら野原を馬で走らせていると、笠帽子を被った何者かが前をゆっくり歩いていたので、武天は白馬の速度を遅くした。

「そこの御仁、待たれよ。この先は危険だ。引き返しをおすすめする。」

 武天はそう忠告すると、その者は顔を合わせて睨みつけた。

「あんこら、あんこら、あーん? こっちは名誉挽回リベンジマッチのワンマンライブの始まりなんだよ! 災狼をぶった斬らなきゃ俺の地位が一生よぉ〜」

 笠帽子を取ったその者は火雷 狂矢だった。

「実質最下位やないかい!」

 そう言うと狂矢は笠を思いっきり地面に叩きつけた。すると笠は壊れて地面にヒビが割れた。そのため、武天を乗せた白馬はあたふたした状態でそこから少し距離を置いた。

「おっとっと。どうどう、落ち着きたまえ。」

 武天は白馬をなだめると、狂矢と目を合わせた。

「火雷殿、久しぶりだ。貴殿は何故このようなところに?」

 武天は気になって気になったことを尋ねた。狂矢は怒鳴り返した。

「おい、おいいいって! 美の区の松平の若じゃねーか! 若がなぜここにいるかわからん、って何言わせとんじゃ!」

「いや、貴殿の滑り具合など知らん。」

 武天は冷静にツッコミを入れると狂矢はまたもや怒鳴った。

「やかましか! 貴様に言うことなど何もない! このやかまし、やかまし、やかまし生物!」

「……やかましいとは声が大きい、騒がしい、文句が多く厳しいなどの意味がある。どちらかというと火雷殿の方が当てはまると思うのは気のせいか?」

 武天が悠長に説明している間 、狂矢の顔は怒りでみるみる赤くなっていた。

「俺はよ〜。得た地位獲得するまで努力したのによ〜。あのクソ狼に負けたことが地域やお偉いさんにバレて、地位剥奪で威厳面子丸潰れだ! 取り戻せるもん取り戻すには奴に再戦するしかねぇんだよ!」

 狂矢は怒りで叫び続けた。

「そんな心の内、貴様に話すわけねえだろ!」

「全部漏れてるんだが。」

 武天は冷静に言うと、狂矢はんなぁ〜! と言い驚いた後にすぐに睨み返した。

「謀ったな、鬼軍師!」

「いや何一つ策を弄していないのだが。」

 武天はまたもや冷静に応えると、狂矢はさらに怒りを露わにした。

「てんめえ、許さん!」

 狂矢は刀を抜こうとしたが、その前に武天が言葉で止めようとした。

「辞めたまえ。この距離なら馬で避けれる。その後俺を逃がせば大軍をもって狂矢殿と戦いましょうぞ。」

 この武天の発言に狂矢は一瞬刀から右手を離したが、その後すぐに行動をした。

「だったらこっちに引き寄せて確実に殺してやる!」

 そう言いながら浪人となった侍は緑の左腕を武天の方に伸ばした。しかし、武天は臆してなかった。

(やはり噂通りの力を手に入れたか…。)

 狂矢の腕が武天の胸ぐらを近くまで来て掴みそうになった。その瞬間、武天は会話中に手に忍び込ませていた針を、狂矢の手のひらにぶっ刺した。

(さあ……どうかね⁉︎)

 武天がそう考えると、狂矢はひざをついてしまった。

「いってえ! 痺れる!」

 狂矢は左手を近くに戻すと、刺された部分を確かめた。

「毒? あれ感覚が…。」

 麻痺してしまった腕は重力のままに身を任せた。

「狂矢殿……いや、浪人狂矢。悪く思わないでくれ。正当防衛だ。」

 武天はそう言うと毒針を安全に閉まった。

「死にはしないがしばらくはまともに動けんだろ。」

 狂矢はギロッと武天を睨んだ。

「てんめえ! 舐めてんのか! くっ!」

 狂矢は痛みに耐えながら叫んだ。武天は澄ました顔で答えた。

「舐める? 貴様を? とんでもない。むしろ逆だ。貴様は武勇に優れ、学もあり、頭も切れる。地位こそ剥奪されたが、領地の質は大名の一歩手前。成り上がりにしては上出来と言えよう。おまけに野心があり、仕事もできる。戦乱の今だけでなく平和な世界でも生きていけるだろう。それに貴様は貴様なりの立派な武士道を持っている。そんな貴様をむしろ俺はかなり警戒していた。」

 武天はこう言うと一息つき、話を続けた。

「だが同時に感情的で人望がない。地位がなければ貴様は一人だ。それに他の手段があったものの自ら間違った選択肢をすることがある。その手が動かぬ証拠だ。」

 武天は指で狂矢の手を指した。狂矢に睨まれながら武天は話を続けた。

「おまけに数日経ったとはいえ、あの災狼と戦ったのだ。回復魔法がなければ、体がすぐに平常運転などまだ時間がか掛かる。そこも利用させてもらった。」

 この時、狂矢はうつ伏せに意識があるまま倒れた。構わず武天は話を終わらせにかかった。

「俺の武士道で心掛けている一つのことは敵への敬意。敵に敬意を示すということは、相手をより深く知ろうとすること。そして心を尽くして、知恵を尽くして、持っている力全てを尽くして挑む姿勢だ。」

 武天は高らかに語った。

「後これは私情だが、俺は友を痛めつけた貴様を許せないんだ。もちろんあの都への護衛を頼んだのは俺だから責任がある。その件に関しては自分のことも許せん。」

 武天は最後に睨みながら付け足すと、狂矢は歯ぎしりをした。

「雑魚のくせに武士道や仇討ちを語りやがって。てめえなんざ腕一本で余裕だぜ!」

 そう言うとバルナバは腕に念力を集中させた。

(くっ、さすがと言ったところ。打たれ強さは別格。仕方ない、災狼に使いたかったがこいつに一発…する必要ははなさそうだ。)

 武天は試行錯誤してると、狂矢の後ろから全力で走っている顔なじみに気づいた。それに気づかない狂矢は溜めた力を解き放とうとした。

「キャキャキャ、くたばりやが、」

「おらああああああ!」

 間に合えと思いながら全力で駆けつけた括正は上に揚げられていた狂矢の右腕を見事に斬った。

「え?」

 狂矢がそう言った瞬間、そこから血が流れた。

「ぎゃあああああああ! ああああああ!」

 痛みで狂矢は悲鳴をあげた。さらに狂矢は大声で言葉を放った。

「痛えええ! この国で運の良さで言うなら! 俺が実質最下位やないかい!……グハッ!」

 それを最後に火雷 狂矢は意識を失った。しばらくの間二人の侍は黙っていた。

「……出会ったのか? 災狼と。」

 最初に言葉を放ったのは武天だった。

「ああ。負けた。」

 括正は淡々と答えた。

「だけど今の僕は一皮剥けてる。あんたは策があるのか?」

 括正は武天に質問した。

「もちろんだ。それに俺も獣の区との戦で一皮剥けた。武器もある。」

 武天はそう言うと馬に括正が座れるように、馬の後ろの方に体を動かした。

「馬術は君の方ができるとみた。お願いできるか?」

「おう。」

 括正はそう言うと馬に乗りあがった。

「道化と軍師で、悪い狼を退治しようぜ!」

 そう言うと馬は真っ先に危険へと向かっていった。

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