四章 道化と軍師、そして狼 その3

「戦の前線を見てみたい。」

「却下だ。」

 城を抜け出し、岩本家の屋敷にやってきた武天に座っていた括正はしっかりと断った。武天は不機嫌そうに文句を言った。

「まだ何も言っていないではないか。」

「大方、兵に紛れたいけど、自分が弱いから護衛して欲しいってことだろ?」

 括正が言い当てた要望に武天は話を続けようとした。

「そうなのだよ。今度獣の区に朝廷の大義名分で美の区が進軍する。砲銃を活かした俺の軍略が採用された。」

「あんたの策ってほとんどの場合、採用されるじゃん?」

括正は割り込んで発言した。武天は再び不機嫌になった。

「話の腰を折らないでくれたまえ。俺は身近でどうなるか見たいのだ。」

武天はそう言うと、括正は深くため息をついた。

「撃ってしばらくしてから、大砲の砲弾の大きさに変わる銃弾の何が面白いんだ? 人を殺せることに関しては普通のやつと変わらないじゃん。」

 括正はふてくされると、武天はまたお願いした。

「頼むよ、括正君。一番最初に俺がした頼みより難しいのかね?」

「当たり前だ。あれは美の区の中にある村への移動だし、あんたが実の親の様子を見たいって言ってたからだよ。」

 括正はゆっくり立ち上がりながら、喋り続けた。

「あんたの行動には聡明さがある。今回を除いてな。武器の威力を見たい好奇心で戦場に行くなんざ、国や民を思う侍の心として実質最下位やないかい!」


・・・

・・・


「俺の真似しとるやないかい! ……あ?」

 狂矢は突然起き上がると布団の中にいた。周りを見渡すと豪華な屋敷の閉ざされた部屋の中にいた。

「フンニャー!」

 突然、横からした声に狂矢は横を向いて驚いた。

「ウォーい、おいいい、おいって!」

 びびった狂矢が目にしたのは赤いシマシマの宙に浮いた猫だった。

「よよよ、よう! なんだお前は⁉︎ 俺のビートを乱すなんざとんだビブラートだなぁ、おいい。」

 狂矢は猫を挑発した。かなり苛立っていたのだ。

「起きたニャア! 起きたニャア! ご主人に知らせニャア!」

「おいって、喋れるのかい! って消えた? どこ行った? おいって!」

 しばらく狂矢がギャーギャー騒いでいると、猫は突然現れて、宣言した。

「来るにゃ、来るにゃ。おみゃあも礼儀わきまえにゃあかんよ〜。」

 猫の忠告に狂矢は勢いよく反発した。

「何のことだペラペラキャット! 俺は公家や殿様や権力者やあの方以外には礼儀は見せねえって決めてるんだ!」

「一瞬かっこよく聞こえるけど、割とダサいにゃん! おっ、きたにゃん!」

 猫がそう言うと、狂矢は一瞬で屋敷の気圧が変わるのを痛感した。

(お、俺のビートが乱れた? こんな感覚初め…嫌、忘れるはずがねえ。ガキの頃以来だ。)

「お目覚めか、荒ぶる刀よ。」

 戸を開けた者は、白い袴に黒い上を着て金髪で青い瞳の持った長身の美青年の侍だった。

「あ、あんたは…いえあなた様は世界を震わせる東武国の国宝…」

 狂矢は喋っている途中で息を呑んだ。

「侍大蛇―宮地 蛇光様ですかい?」

 狂矢の質問にこの人物は冷静に口を開けた。

「余を知っているか? ご名答。余は蛇光だ。この国の外の者は貴殿とは違う反応だ。貴殿からは敬意の念を感じれる。」

 狂矢はこれを聞き、歓喜で心を溢れさせ、布団から起き上がった。

「キャキャ、当然っすよ。天上知らずのあなた様の背中、追いたくて昇ってきたんだ、よよよようっ!」

 そう言うと狂矢は、あることに気づいた。

「あなた様は俺がガキの頃と何一つ変わってない。……あなた様は人間なんすか?」

 狂矢は好奇心で質問をした。この質問を蛇光は軽く受け流した。

「そんなことより誉めてつかわす。魚人調査員の討伐見事。余はそれが嬉しい。」

「ん? そうですかい? ってことはやはりあの島は…」

 推測が当たっていたことに狂矢は喜びを感じていた。

「余の魔力なら容易きことよ。海賊が基地を建てたあの島は余が作ったのだ。海の無法者達へのプレゼントだ。」

 蛇光は穏やかに話した。狂矢は不思議そうに思った。

「プレゼント? じゃああなた様が手引きしたんですかい?」

 この狂矢の質問に蛇光は優しくゆっくり頷いた。狂矢は心から感動した。

「くぅー、やっぱあなた様は行動もスケールも突拍子もなく最高にロックンロールだぜ! しかしなぜ?」

「いずれわかるさ。それにおかげで貴殿は海賊提督ビリーを倒した東武国の英雄になれたのだからいいではないか。」

 蛇光の発言に狂矢はへ? っと反応したので、蛇光は順序よく説明した。

「貴殿は死闘を繰り広げた末、気絶したのだ。心配ない。余は生き残った者達にちゃんと貴殿が大活躍したことを伝えるように脅したから、貴殿の国内出世は約束された。一方で余は重症の貴殿を直接余の別荘に運んだのだ。」

 蛇光はそう言いながら、密かに心の中で思うことがあった。

(最もてめえだけを英雄にするつもりが、ビリーの野郎が余の目を盗んで傭兵を本土に送り込んだのは計算外だった。おかげでもう一人英雄が生まれたからな。岩本家は非常に厄介だ…。)

 考え事をした蛇光は目を狂矢に戻した。

「火雷 狂矢君、君の度量は朝廷から聞いている。余の家臣になりたいか?」

「ははっ!」

 蛇光の質問に狂矢は元気よく返事をした。

「よろしい。今日から余の家臣だ、狂矢。早速、討伐の任務だ。」

 そう言うと蛇光は手のひらから緑色の蛇を取り出した。

「動くなよ。」

 そう言うと、緑色の蛇は狂矢のかつて左腕がくっついていた部分に噛み付いた。

「うおっ!」

 たちまち蛇は顔を失い、気がついたら狂矢には新しく緑色の左腕が出来ていた。

「おおおお! これは! 力がみなぎる!」

「気に入って何より。さてさっそく任務だ。余は今この国にて計画を立てつつあるが明らかに邪魔な存在が一人。何故なら余ですら奴が何をやらかすかわからないからだ。その者は行くところに災いをもたらす人狼―災狼のバルナバだ。貴殿の腕を見込んで討伐をお願いできるか?」

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