三章 侍道化の珍冒険 その5
「おほほほほ、愉快。痛快。力がみなぎっているわ!」
ルシアは解放された超自然的な力をふるって巨大な渦潮を作って、何隻もの船を海に沈めては、神様ごっこを楽しんでいた。
「だけど、解放したばっかということもあって、まだうまくコントロールできないわね。強い勇者か怪人を相手にしないと腕を磨けないわね。……ただここら辺の海の奴らほとんど雑魚だし、そうそう強い相手なんて…」
「うほほほほ〜!」
突然の鳴き声にルシアは振り向くと、そこには括正と幸灯が入っているシーコングが横になって泳いでいた。
「あ、あれはシーコング? あまりにも世界への被害が絶大だったために海の軍隊が絶滅させたはずなのに…。ふふ、“あいつ”も結構甘いのね。まあ私みたいな存在を捕まえずに野放しにするくらいだからそりゃそうか。だけど強者への巡り合いに感謝ね。さて…」
ルシアは海の言語でシーコングを挑発すると、その巨体は振り返りルシアを目掛けて正拳を繰り出した。ルシアも負けじと正拳を繰り出す。
「んほおおおおお!」「おりゃあ!」
化け物同士の最初の拳のぶつかり合った。彼女らの周りの一帯の海の波が外側へと流れた。
一方その頃、括正と幸灯のいる空洞にもその反動が来ていた。
「キャッ!」
空洞の揺れに寄って、体が軽い幸灯は宙に舞った。
「幸灯!」
括正は急いで走り幸灯を受け止めたが、幸灯は括正に触れられた瞬間拒否反応を起こした。
「は、離して!」
「ご、ごめん。」
括正は謝ると急いで彼女を下ろし背中を向けた。幸灯はその場で座って、震えながら小声を出した。
「嫌い。嫌い。酒酔いで嘘つきでいやらしい括正なんか大嫌い。あなたのそんなところ、知りたくなかった。」
括正は落ち込むと視界に幸灯の小舟と一方通行のはずの空洞への入り口が空いていることに気づいた。括正は急いで服を着てから、小舟を引っ張ってきた。
「幸灯…本当にごめん。多分君は生まれてから一番傷ついたと思う。……でもそれを一旦忘れて、僕を信じて欲しい。頼む!」
括正は深く土下座した。
「今ならここから脱出できると思う。船に乗ってくれ。」
「……わかりました。そのかわり私のこと絶対に触らないで下さい。」
幸灯はそう言うと括正はもちろんと返し、彼女は小舟に乗った。括正は小舟を空洞の入口へと揺れている空洞の中で押した。
一方その頃激しい殴り合いが続いていた。
「ウホウホウホウホ!」「オラオラオラオラ!」
僅差だったが一瞬の隙でルシアがシーコングに正拳突きを喰らわした。
「おらああ!」
「ゲボおおおお!」
シーコングは少しだけぶっ飛ばされてしまった。その影響は体内にも来た。
「うわあ!」「きゃあ!」
揺れによって括正と幸灯を乗せた小舟は流れるように体内のトンネルを抜けていった。気がついたら、シーコングの喉のあたりに来ていた。幸灯は思わず口を開いた。
「先ほどからすごい揺れですね。まるで何かと戦っているみたいですね。」
「うん、だけど本で読んだことあるけど、本来シーコングが受ける衝撃はよほどじゃなければ体内に影響を及ぼさないわけだけど、よほどのことが外で起きてるんだね。」
括正のコメントに幸灯は思わず愚痴を言ってしまう。
「ふわぁ〜。行くも地獄、戻るも地獄、近くに地獄。酷い目に遭いました〜。」
近くに地獄というワードが特に耳に入った括正は自暴自棄に小舟を降りようとした。慌てて幸灯はたまたま服から出ていた括正のしっぽを掴んだ。
「こ、コラ! どこに行くのです?」
括正は後ろめたさに黙っていたが、幸灯は括正が何をしようか理解していた。
「ダメですよ! 自殺なんて! 許しませんよ! 確かにあなたは私に悪いことをして、私はとても傷つきました。でも死んで罪を償えるなんて思わないで下さい!」
幸灯は涙をポロポロ流しました。括正に対する嫌悪は残っていたもののやはり彼女にとって、彼は必要な存在だったのだ。
「武士が切腹するのは何回か見たことあります。あんな風習大っ嫌いです。教えてください括正! あの方々はなぜ自ら腹を斬るのですか?」
幸灯の質問に、括正は渋々答えた。
「切腹は権力を持つ人間からの命令で行うのがほとんどなんだ。切腹は仁義や忠誠心の証なんだ。」
「だったら話が早いです。……こっちを向きなさい!」
幸灯は括正の尻尾を放すと、括正は渋々幸灯の方へ体を向けた。幸灯は括正の顔に人差し指を向けた。
「いいですか? あなたは美の区との縁を切った後は私があなたの主人です。主人の命令は絶対だということなので、命令します。切腹などの自決や自殺を禁じます。命は価値ある何かに使いなさい。そうじゃないときは手段を選ばずに全力で生き抜くのですよ。わかりましたか?」
括正は誰にもされたこともない命令で黙ってしまったので、幸灯は仕方なく胸ぐらを掴んだ。
「これはあなたの将来仕える女王の命令です。不服従ですか? 従いますか?」
「お、仰せのままに。」
そう括正は約束すると、幸灯は両手を合わせて笑顔で言いました。
「わかりました。信じましょう。ではまずはここから抜け出して、二人で無事に東武国に帰りましょう。策はありますか?」
括正は周りを見回したがシーコングの下は活発に動いており、歯はとても飛び越えれる高さではなかった。
(おそらく、シーコングは僕らが脱走したことに気づいていない。よって脱出しても気づかれないかもしれない。だったら…)
「閃いたよ。外からの反動としたの動きを利用して口から出よう。」
「なんと! 大胆ですね。少し怖いですけどやってみましょう。」
その頃ルシアは高笑いしていた。
「おほほほほ、どうかしら海ゴリちゃん? お前が私に勝つなんてふ、か、の、ゲ!」
ルシアはシーコングの魔力の上昇に気づいた。シーコングは掌底の構えで手のひらに魔力を貯めていた。
(ま、まずい。暗風の双手では間に合わない上にあのデカさが放つ魔法は回避不可…)
「うほ波あああああ!」
シーコングは叫びながら手をルシアに向けて伸ばすと、手のひらからビームのように大量の水が解き放たれた。
「ぎゃあああ!」
正面から攻撃を喰らったルシアは後ろにぶっ飛んだと同時に魔力を包み込んで波状の水はそれと比較すると圧倒的に小さな彼女の体をを覆った。
(クッ! なんて威力! 獣物の分際で魔法を! このままだと私の体が分子レベルでゴナゴナに!い、痛……痛くない?)
ルシアは自分の体の状態を確認した。確かに最初は水の衝撃に痛みを感じて現在進行形で後ろに少しずつ飛ばされているが、まるで抗体ができたように体に平安がある。
「そうだったわ……今の私はどこにでもいるような人魚じゃない。正当な海の後継者の一人なんだ。」
ルシアは思い切って踏ん張って留まった。攻撃を続けているシーコングは自分の全力の攻撃の中で立っているルシアに生まれて初めて恐怖を感じた。
「情けないわね。海の魔女と呼ばれている私が、たかが水の流れにビビるなんて。私の人生は敵が多くて、いつだって逆流。この程度の試練、乗りこなすのは準備運動!」
そういうとルシアは思いっきり前方に正拳突きをするとシーコングの攻撃に比べたら範囲が狭いが、攻撃の中で水の逆流を生み出した。ルシアは自ら生み出した逆の流れを泳いでシーコングに接近した。気がついてらルシアはシーコングの手のひらまで近づいたため、手のひらの下へと退避して反撃を試みた。ルシアの両手は紫黒のオーラに包まれた。ルシアは前かがみになっていたシーコングの腹を目掛けて高く跳んだ。
「八連アッパーカット!」
ルシアは片手四回ずつ合計8回の強力なアッパーカットをシーコングに喰らわせた。
「んほおおおおお!」
攻撃をもろに喰らったシーコングは悲鳴をあげながら宙に高く挙げられそうになった。痛みは体内も刺激した。
「今だー! 押せー!」
外の異変に気づいた括正はそう叫ぶと、幸灯と一緒に思いっきり小舟を押してからなんとか乗り込んだ。シーコングの舌は口の外まで出ていて下り坂になっていたため、二人を乗せた小舟は瞬く間にシーコングの中から解放された。
「ぎゃあああ!」「キャアア」
小舟は海に着地すると流れに乗ってすぐさまその場をものすごいスピードで離れた。シーコングはそのあとさらに平行に空へ跳んだ。ルシアは高らかに笑った。
「あはははは、どうよ。このルシア様にかかればこんな化け物ちょちょいの、あ、まずい。」
意識を失ったシーコングの体はそのままルシアの上に落ちてきた。
「ぶべえええ!」
ルシアはシーコングに押し潰されたまま深海へと沈んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます