三章 侍道化の珍冒険 その4

「幸灯に話したいことがある。」

 次の日の朝の食事中にに括正が幸灯に言ったことである。新鮮な魚がちょくちょく二人の閉じ込められている空洞に魚がやってくるので、食べる物には苦労がほとんどなかった。しいて言うなら野菜不足なことと最後の晩餐になるかもしれないという恐怖くらいである。幸灯は下を向きながら喋った括正に無邪気に反応した。

「なんです、括正?」

「昨日僕が言った武勇伝あるじゃん?」

「はい。あなたがとっても勇敢で頼もしいのは私は…」

「全部嘘なんだ。」

「え?」

 幸灯は唖然としてショックを受けながら括正を見て、しばらくの沈黙が流れた。括正は恐る恐る口を開いた。

「僕は一人で海賊の討伐に行ったわけじゃないんだ。……討伐に出た集団の一人に過ぎない。……ついでに言うと僕は海賊とまともに戦ってすらいない。……いけないとわかっていたんだ。だけど僕はまだ子供なのに……先輩たちの誘いをきっぱり断んなかった。……それで頭がうまく回らない状態で…船に乗り込んだ敵に挑んだ。船に乗り込んだ敵に挑んだ。……君は僕を怪人だから強いと思っているかもしれないけど、僕は……フォーンは再生能力もなければ生まれもって強靭な肉体や魔法の力を持たない……弱い怪人なんだ。だから……弱い上に酔っ払った僕が特殊な力を持った海賊に勝てるわけがない。あっさり海に投げ捨てられて、落ちたところがこの化け物の口だった。……君に嘘をついてでもかっこよく見られたかった。本当にごめん。……許して欲しいとは思わない。ただこうして言うことによって自己満足してるとこもあることを認める。……本当にごめんなさい。」

 括正は静かにゆっくりと幸灯に土下座をした。全ての嘘を信じていた幸灯はかなりショックを受けたため、しばらくの間、沈黙が流れた。幸灯はスタスタと土下座しながら震えている括正の前でしゃがんだ。

「括正、顔を上げて下さい。」

 括正はゆっくりと顔を上げた。

 すると、

 パシーン!

 幸灯は思いっきり括正をビンタした。父親のゲンコツに比べたら、その手は弱く肉体的には痛くなかったが、精神的に痛かったため、括正は涙目になった。幸灯は真剣な表情で括正に忠告をした。

「二度と私に嘘をつかないで下さい。……今のは私の怒りです。」

 次に括正の顔に近づき、頰にキスをした。括正は激しく動揺した。

「え、ちょっと、え? え? え?」

「今のは私の許しの印です。」

 しばらく空洞にて括正と幸灯の間には何もなかったが、幸灯は後に括正に言葉ではなくキスで許したことを後悔することになる。


・・・

・・・


「あなだも、誰かの嫌な部分によって傷ついたからって自分の光を殺さないで! 私たちはみんな愛され愛されるために生まれてきたの! 復讐のために生まれたんじゃない!」

「物理的な力にしか惹かれない生き方に意味なんかないわ。私は自分の醜い心を清めたいからこそ心を見て人を選ぼうって決めてるの! おわかり、能無し。」

(うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! ああ、うっさいなぁ!)

 波に流され、海を彷徨い続けていたルシアの体は未だに動けなかった分、頭は彼女の都合悪く活発に同じ言葉が何度も暗記させられていた。

(あの小娘共許さん! 何であんなに他人のために頑張れるわけ? あの魔女馬鹿なの⁉︎ 命賭けであの泥棒女を守りやがって。あの黒髪小娘もそうよ! あの魔女と知り合いだったなら、戻った私に殺されるかも知れないってわかっていてもおかしくないはずよ? 散々人を殺して、人を騙してきたりして、数えきれない程の罪を重ねた私と友達になりたいって? 私にはそんなのいらない! 私は強さがあればいい。……だけど私はあの魔女に負けた。腹ただしい。……私、囲まれている?)

 首すら動けない無防備なルシアは不規則な水の流れの変化に気づいていた。距離はある程度あるものの四方から肉食の水の化け物の群れに囲まれていた。ふと一匹が彼女の視界に入った。

(あれは……鉄喰いザメ! まずい囲まれた! くっ、いつもならこんな奴ら拳でぶん殴るか私の黒い触手で絞め上げるかするのに……このままじゃ喰われてしまう。)

 やがて鉄喰いザメの群れは完璧にルシアを包囲すると、一気に大きな口を開けながら彼女の方へ突撃した。

(動いて! 動いて! 動け体! ルシア、あんたこのままじゃ終わりよ。そんなの嫌だ。私の…私の運命は…)

「私の運命はお前たちが握っていいものではない!」

 ルシアはやっとの思いで叫ぶと、彼女の体は眩しくて黄色い光を放った。距離の近かった鉄喰いザメ複数は眩しい光が及ぼす衝撃に耐えられず、何人か命を落としてしまった。残った鉄喰いザメ達は恐怖でその場を動けなかった。ルシアは光っている自分の両手を見つめた。

「これはっ! 昔姉に封印されていた海を我が物にできる聖なる力! 命に関わる危機的状況によって封印が解けたのね。……ふふ、血が騒ぐじゃない。」

 ルシアは辺りを見回すと、恐怖を乗り越えて殺気に溢れる鉄喰いザメ達がいた。群れの内八匹がルシアに突撃してきた。ルシアは脳内でイメージを始めた。

(神の力を取り戻した私の触手は…)

「しなやかでありながら…肉体を貫く!」

 ルシアはそう叫ぶと、合計8本の触手が伸びて、鉄喰いザメ八匹の体を貫いた。ルシアは残った鉄喰いザメ達を睨んだ。

「私は気高く美しい人魚姫。ようやくその“称号”を取り戻した王位継承候補の一人。お前たち、頭が高いわよ。」

 ルシアはそう言うと、人差し指を下に向けた。鉄喰いザメ達はおとなしく彼女にひれ伏した。


・・・

・・・


 さて、話を括正と幸灯がいる空洞に戻るとしよう。

 括正はずっと被っていたターバンを被り捨てて、黒い長靴や服も脱ぎ、自然のフォーンらしく全裸になっていて、幸灯に背を向けた状態で座っていた。幸灯は和服の帯がとれた状態で片手と服で胸を隠しもう一つの腕を彼女から見て斜め上に伸ばした状態で涙をポロポロ流しながらしゃっくりを出していた。

「ひっく、…うう、……ひっく、ひっく……ううう…。……うわああああああん!」

 必死に我慢していた幸灯は急に大泣きをした。括正は背を向けたまま、謝った。

「ごめん幸灯……本当にごめん。」

 幸灯が括正をキスしてから数時間後になる。幸灯のキスで彼女の女性としての魅力に惹かれてしまったこととどうせ死ぬなら子供を作る運動を体験してから死にたいという欲望が括正に行動を起こさせる動機づけとなってしまった。括正は幸灯をより深く知りたいと思った上で、幸灯に‘ある遊びをしないか?’と色々伏せた上で誘い、その行為を実行しようとしてしまった。しかし前段階の途中で幸灯は括正がしていることがどういった関係同士がすることか気づいてしまい、抵抗して暴れた。括正は自分が異性として見られていないことに気づきことを成してしまう前に離れて距離を置いた。結果的に括正は幸灯を知るまではいかなかったが、彼女を傷つけてしまった。そういうわけで現在、括正はは人としての自分の理性よりも怪人としての自分の本能を優先させてしまったことを後悔して、幸灯から距離を置き背を向けてしまった。

 突然幸灯は立ち上がって近くにあった括正の長靴を彼の方に投げつけた。

「この悪魔! 怪物! 私に対する謀反ですか⁉︎ 最低です!」

 括正は黙って下を向いた。何も言い返せなかったからである。

「こっちを向きなさい! なぜ顔を背けるのです⁉︎ なぜあんなことしようとしたんですか⁉︎ 私がいつあなたにそんな好意があったと⁉︎ いつ私があなたを誘惑…」

 突然幸灯は喋るのを辞めて、括正の頰にキスをしたことを思い出した、

(ま、まさか! あ、あれですか?)

 何の偶然か括正は自分の頰に自分の手を触れてしまったため、幸灯は激しく動揺した。

「あ、あれは……励ましです! 友達同士のチューです! 私は決してあなたにそのような気持ちを持って…」

「僕は君がそういう気持ちだと思ったんだ!」

 括正は突然首を向けて大声で叫んだ。括正の眼も涙で溢れていた。

「そんなつもりなかったんだったら、言葉で言えよ!」

 幸灯は驚いてしまいその場で座ってしまって、しばらくの沈黙が続いた後に言葉を放った。

「私……どうすればいいかわからない。」

 括正は複雑な心情で答えた。

「僕もわからないよ。」

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