三章 侍道化の珍冒険 その3

「起きて! しっかりするのです、括正!」

 シーコングに喰われて意識を取り戻した括正が一番最初に耳にした言葉である。目を覚ますとそこには何と幸灯がいた。

「ゆ、幸灯?」

 括正が声をあげた瞬間、幸灯は泣きながら括正に抱きついた。

「ふわぁ〜よかったです〜、生きてて。私一人だけで死を待つのかと思ってすごく怖かったんですよ。」

 幸灯が安心の言葉をかけると、括正は辺りを見回した。閉ざされた入り口がある生々しく赤い空洞に二人はいたのだ。次に括正は彼女に質問した。

「幸灯は何でここにいるんだい?」

 そうすると幸灯はどこかに指を指しながら、経緯を説明した。

「あの小舟を使って海の上で釣りをしていたら、急に大きな黒い手のひらの上に舟が乗っていました。後ろを振り向くと大きなお口がありまして、パックンです。」

「へ、へぇ〜。」

 絶対この子段々島から遠くへ流されたの気がつかなかったなぁ〜。っと括正は思った。続いて幸灯が質問してきた。

「括正こそどういった経緯で海ゴリちゃんの中に落ちてきたんですか?」

「僕? 僕はね、」

 ゲ!っと括正は思った。お酒を飲み過ぎた後から酔いが醒めるまでの間の出来事を全て忘れる者もいればはっきりと覚えている者もいる。括正は間違いなく後者である。酔った勢いでさらに飲んだこと、止められたにも関わらず戦場に行ってしまったこと、緊迫していた状況に空気を読まず、敵の不思議な力によって遠くへ飛ばされてシーコングの餌食になってしまったこと。

「ぼ、僕は…」

 最初は正直に話そうと、声を出したが、幸灯の純粋無垢な笑みを見て、思い留まった。

(い、言えねー! 言えないよー! 酔っ払って、油断して、 飛ばされて運悪くぱっくりなんて言えるわけないよー! 幸灯にだけはダサいって思われたくなーい! ……よし、どうせ死ぬんだ。嘘つこう。)

 括正はそう心の中で宣言すると、腰を両手に置き、ホラ話を始めた。

「ふふ、ふーん。僕が落ちたって? 僕は自ら志願して、この地獄へ飛び込んだのさ。」

 この発言に幸灯はきょとんとした。括正はさらにカッコつけるために、手を銃の形に変えて、幸灯の方に向けながら、言い放った。

「君のハートを撃ち抜きにね。バキューン。」

 それを聞いて、座っていた幸灯は祈り手になり、目をキラキラさせながら喜んだ。

「ええええ! ふわぁ〜。 私のために〜? 私とっても嬉しいです。ありがとう、括正。」

 お礼を言われた括正はさらに調子に乗ってホラを吹き続けた。

「そうとも。そのために苦労したんだぜ。侍道化の故郷からここに至るまでの武勇伝聞きたいかい?」

 括正はそう言って耳を傾けると、幸灯は大声で返事した。

「聞きたーい! 聞きたいです!」

「よぉーし、そこまで頼むなら仕方ない。聞かせてやろうではないか!」

 あれ? 私そこまでって言えるほどは頼んではないと思うのですが、まあいいや、っと思いながら幸灯は座って括正の話を聞いた。

「そう、俺はたった一人で300人もの海賊を討伐するように朝廷から直接命令を受けていた。震えはしたが武者震い。俺の船を戦場へと導く波は瞬く間に僕を海賊のいる島の近辺まで導いた。島が見えたところでで俺は思ったのさ。舟で上陸するまでもねぇってな! そこで俺は海を走ったぁ、のさ。」

「えええ、括正って魔法使えたの?」

 途中で割り込んだ幸灯に括正はニヤッと笑った。

「ノンノン。俺は正義と主君である君を思う情熱で走ったのさ。キラッ。」

「ふわぁ〜、括正すごく素敵です〜。」

 顔を赤くした幸灯に、括正はさらに調子を乗ってホラを吹いた。

「そこからは戦場だ。突撃してくる無法な海のクズ共を斬ったり殴ったり、ビームを出したぜ。」

「えええ、ビーム⁉︎」

 目をキラキラさせながら幸灯は反応をした。

「ええ! 今出して下さい括正!」

「え…、んとねー…」

 まずい盛りすぎたっと思った括正は必死に考えた末に発言をした。

「お、俺のビーム能力を……永遠に封印する超音波を使える奴の手によって、使えなくなった。」

「そうなんですか。ビームなしで一体どうやって?」

 少し残念そうな顔をしてから、すぐに立ち直り質問したので、括正はさらにホラを吹いた。

「なーに、俺は奴ら海賊にとっては強すぎる侍の中の侍。ビーム能力を奪われたのはハンデを与えてやったようなものよ。半分屠ったところで海賊艦隊の主力たちが出てきやがった。吸血鬼や魔女、人狼や鬼人。俺はそんな奴らに一ミリもびびらなかったぜ。」

 幸灯は熱心に聞いていたが、ふと気になることがあった。

「括正がなりたいって言ってた吸血鬼が挑んできたんですね。彼らは弱点はあるのですか?」

 この質問には括正は正直に答えた。

「うーん、…今のところこの世界の吸血鬼は目立った弱点は種類関係なくないみたいだね。違う世界の吸血鬼には弱点があるって聞いたことあるけど。」

「違う世界?」

「何個もあるらしいよ。星の彼方や時空の彼方。ゾンビが知性を持った世界や星使いの賢者が多い世界。ある世界の吸血鬼は十字架や太陽の光、ニンニクやまさかの味の原点の一つでもある塩まで、弱点が多すぎるタイプもあるらしい。」

 括正は淡々と説明すると、幸灯は心を躍らせた。

「違う世界……面白そうですね。あ、話戻しますけど、弱点がない多くの怪人と括正一体どうやって?」

 幸灯の質問に括正はまたホラ話を続けるのであった。

「えーと、一人ずつ確実に急所を攻撃して……気合いでなんとかした。」

「え? 気合いで? すごいじゃないですか! さすが括正! 武士の中の武士です!」

 疑いもしない幸灯の純粋な瞳を見つめて、括正はさらにホラを吹いた。

「最後に残っていたのは親玉のビリー。奴は俺に命乞いしてきた。俺は見逃すと言って背を向けると奴は鉄砲をドーン。だが俺は弾丸を真っ二つに斬ってそのまま飛斬をシューンで、ビリーびりっと紙みたいに簡単に真っ二つになって、俺は海賊艦隊の全滅させたのだ! シャキーン!」

 括正はキメ顔をすると、幸灯は素直に拍手をして括正を称賛した。

「おおおお、括正すごくカッコいいです〜。」

 括正はさらに調子に乗ってホラを吹いた。

「ところが俺の功績をすぐに知った朝廷は俺についてこう思ったらしい。‘えええ、こいつ強すぎてかっこよすぎん?’ ってね。すぐに百匹のグリフォンに乗った50人の聖騎士と50人の侍が俺の命を奪いに島にやってきた。へへ、流石の俺も疲れたからそんなに倒せなかったな。何人だったかな? あっ、そうだ聖騎士30人に侍20人だったぜ。どやさー!」

 括正の舌はもはや留まらなかった。

「その時だった。突然現れた海の怪物に僕は君の助けを求める心の声が聞こえた。俺は残った聖騎士と侍たちに高らかに誇った。‘すんげえ、楽しかったぜお兄さんお姉さん方。だが俺には姫を助ける義務がある! ってなわけでアドゥー!’ そう言って飛び込んだぜ君を助けに口の中!……ゆ、幸灯?」

 括正は幸灯がものすごく落ち着いていることに気づいた。感動し過ぎた上に彼女は劣等感を感じながら、口を開けた。

「……やっぱりかっこよくて強くてすごいですね、括正は。それに比べて私はかっこ悪いな。……私なんて食べられた経緯釣りをしてたからですよ。そんな私を現在八方塞がりとはいえ、助けようという気持ちできた括正は本当に素敵です。」

「お、おう。まあ仕方ないよ。」

 括正はそう反応すると、急に自分の心の声が囁いてきた。

(お前は嘘つきだ。お前は今回はまともに戦ってすらいない。ただの酔っ払った醜いガキだろ。お前は最もかっこ悪い経緯の食べられ方をしたのに、嘘で自分を固めて、役立たずのプライドを守った愚か者だ。)

 急に括正の目から涙が溢れでたのに幸灯はすぐに気づいた。

「え? 括正、もしかしてここが怖くて泣いてますか?」

「え、いや、な、泣いてないよ。ほらこの通り。」

 括正はフォーンらしい踊りをすると、さりげなく距離を置いて幸灯に背中を向けて静かに泣いた。

「う、うう…ヒク、ヒク。うう…」

 括正が泣いていると後ろから幸灯が抱きついて、慰めた。

「色々あって怖かったですよね〜。ここも怖いですよね〜。泣きたくなるのはわかります。大丈夫です。私がついてます。怖がらないでください。」

 括正は涙が止まらなかった、真実を口にする勇気もなかった。

(違うんだ幸灯…ここで死ぬのが怖いのは確かだが、そういう理由で泣いてるんじゃない。君に嘘をついたこと、そしてその嘘を膨らませ過ぎて正直に言う勇気がない自分に怒って泣いているんだ……。)


 嘘はつけばつくほど大きくなりつけがまわってきます。覚えておきましょう

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