三章 侍道化の珍冒険 その2

 舞台は次の朝の海の上である。括正は何人かの兵の一人として三つの大型船の最後尾にある一つに乗っていた。およそ100人の兵が海賊と戦うために海上の戦場へと向かうのだった。括正は船の後ろを見ながら思っていた。

(もう東武国が見えねえや。……にしても今回はこうして違う区の方々が国外の脅威を追い払うために集まっているわけだが、もっと海賊たちと平和的に解決する方法はないのだろうか? 朝廷も朝廷で、こういうことを平気で上から命令を下せるのに戦はやめろって言う勇気はねえんだな。戦の時代が終わったら、さっさと国を出て誰も所有していない土地を見つけて、幸灯に治めてもらいたいなぁ〜)

「おい、小僧〜!」

 突然、括正の考え事を遮るように船の室内から声が聴こえてきた。

「おそらく明日海賊たちとぶつかり合う。その前にみんなで飲もうって話だ。小僧もどうだ?」

 括正は親に元服するまで酒を飲んではならないように言われているが、この船にはもちろん括正の父も母もいない。

(まあ、いいや。飲んでみたかったし〜。一回この歳で飲んだからって悪いことが起こるとは限んねえしな。)

「遠慮なくいただかせてもらいます!」

 括正はそう反応すると、室内にある酒場で兵士に混じってお酒を飲み交わした。

 次の日の朝のことである、最前の船で見張りを任された侍が望遠鏡で見張っていると、前方の地平線の異常な存在に気づいた。慌てた見張りは大声で叫んだ。

「て、敵襲―! 前方より海賊帽子を被った船長らしき男が! 満面の笑みで! う、海の上を……走っています!」

 第一号船の隊長はさらに大声で叫んだ。

「大砲用意! 使えるものは飛斬でぶった斬れぇ!」

 その海賊目掛けて複数の大砲や飛斬が飛んでいったがなかなか当たらず、やがてその一人の海賊はパピーンっと言いながら大きくジャンプして一号船に着地した。

「ボンジュール、武士ども、どーも、どーも! おいらはビリー! ここに到着した海賊の中でびりじゃないけどビリー! 船長なのにビリー!」

 侍の一人が勇気を出して恐喝。

「おうおうおう、海賊コラッ! てんめえ、どうやって海の上を走った? 魔法か? 一人で来るとは度胸あんな、海賊コラッ! それともバカなのか⁉︎ 海賊コ…」

「しゃべりすぎシャラップ!」

「グアア!」

 海賊のビリーはその侍を剣で一刺し、彼の命を奪うと、悠長に答えた。

「魔法? ノンノン、ノーン! 気合いで海を走ったのさ。何故一人でファンキーランニングしてここに遊びに来たかって? お前らなんざ海賊艦隊全勢力使わずとも、おいら一人で充分! 何故ならぁ〜アイ ビリーブ イン マイセルフ!」

 ふざけた力を発揮し、ふざけた自己紹介をしたビリーに、第一号船の船長は苛立ちを感じていた。

「我らを愚弄するな! 我々はみなお前たち卑劣な海賊から愛する国を守るためにやってきた!」

「んん〜硬派っ! そんな貴様に〜ビーリ、ビリー!」

 突然ビリーは手からだいだい色の電撃を出して、船長を攻撃した。

「ぐあ、うがああああ!」

 この不意打ちに直接当たった船長は大声を上げて苦しみながら倒れた。この戦のために選ばれた3人の船長は戦闘力の強さで選ばれた。よって今命をなくした船長はその船だったら最も強かった。そのため、第一号船の侍たちはすっかり戦意を失ってしまった。そんな彼らをビリーはおおいに馬鹿にした。

「あんれれ〜? 武士道って何ですか〜? わかったぜー! お前らの根性、東武国だとおそらく、びりー! そんなお前らの根性消したのはおいら、海賊船長の〜ビリー!……さて、船は二つ……前の船は雑魚しかいねー。だが後ろの船、強いやつをビリビリ感じるビリーである!」

 一方その頃、括正は船内の酒場に酔った勢いでさらに飲み昨日から入り浸っていたため、酒場の管理人に忠告されていた。

「おい小僧。二日酔いのくせにまた飲むんじゃねえ。」

「何言っ天然記念物。おでは酔ってねえ! 酔ってるってのはまともな奴がよー、ヒクッ、変になどぅことダァ! おではいっつも変だー!」

「いやなんだよ、その理屈!」

 そんなやり取りの中、一人の侍が酒場に来て現状報告をした。

「敵は一人、だが強力! 船長が互角以上に交戦中! 救援求む!」

 酒場にいた侍たちはそれを聞いてすぐに部屋を出た。括正も跡を追うように立ち上がったが、もちろん酒場の管理人の視界に入っていた。

「小僧はここにいろ、その状態だと死ぬぞ。」

括正は勢いよく彼の方を向いた。

「なぁーにいってんぐ? ぼきのことなら、だいじょうブイ!」

 括正は体を揺らしながらピースサインを酒場の管理人にして、理由を述べた。

「なんつたああああって、おではさぶらいどうげだぁかぁらー!」

「はいはい、冗談は顔だけにしろよ?」

 店主は括正をなだめようとすると、括正は急に荷物から何かを取り出しながら言った。

「あんこら、あん! だけどおではチョコが好き! じゃなかった。冗談じゃねーよ、こでを見ろい!」

 括正は戦場や処刑の時に顔に被せている白い笑っているお面を取り出した。酒場の管理人は驚いてから呆れた。

「えええ! 本物かよ〜。」

「ってなわけで〜いってきマウス!」

「あっ、コラ!」

 隙をついて括正は跳ねるように部屋を出て行った。

「……俺は知らん。怖いからここにいよう。そうしよう。……あれ? ここにあった酒瓶と俺の銃がねえ…。」

 一方その頃看板で、誰も寄せ付けられない殺気と共に三号船の船長とビリー船長が刃を交えていた。一旦お互い距離をおいたところで、ビリーは寡黙な侍を挑発する。

「ビリビリ〜おいらの名前はビリー! 君の船はびり! 君の実力は〜」

「レッツ、パーティ!」

 突然、右手に銃、左手に酒瓶を持ちながら、片足で二人の間に移動したのでその場の空気が凍った。括正は少し酒がこぼれたのに何故か気づくと、くいっと海賊の方に顔を向けて喋り出した。

「おんめえのせいで酒溢れたんよー。どうしてくれるん? アッヒャヒャヒャ! とりあえず撃ちまーすっ!」

 括正はビリーに向かっていきなり銃口を向けたが、不思議な力でビリーは銃を自分の方に引き寄せて、握力だけで銃を壊した。括正は驚いたが、酒の勢いは止まらなかった。

「なんにいいい⁉︎ おめえは波乗り奉行に戻っていろい! イヒヒヒヒヒ!」

 括正は笑いながら、侍の船長の方に振り向くと、背を向けたビリーに親指を向けた。

「イヒヒヒヒヒ、先輩。おで海賊を波乗り奉行って一括りしちゃったよーん……あで? 俺浮いてる? 浮いてる俺?」

 括正はビリーの念力という不思議な力によって浮かされていた。

「ガキは嫌いだ。さいなら〜!」

 そう言うとビリーは力の限り括正を遠くへ投げ飛ばした。

「あらあああ!」

「岩本ぉー!」

 侍の船長の声も遠くなり、船も見えなくなってしまった。叫びながら飛ばされた括正は重力が効いてきた頃、海に真っ逆様と思いきや、海の中から巨大で危険な生物が現れた。シロナガスクジラの十倍の大きさで、下半身が魚で上半身がゴリラのシーコングという生物である。

「ぎゃああああ!」

 括正は正気に戻ったが、もう手遅れだった。シーコングはペロリと括正を丸呑みしてしまった。


・・・

・・・


 シーコングは絶滅危惧種ではあるが、いても困る存在である。彼らは生き物から船や島、何でも食べる生きた災害なのだ。しかもさらにタチが悪いことに彼らは口に入れてから消化するまで数日かかるため、その間体内にあるいくつかの空洞に丸呑みした食べ物を生きたまま保管する体の仕組みになっている。括正もシーコングの空洞の一つに放り込まれてしまった

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