第28話 手遅れpersonality

 校舎裏で僕は待つ。

 時刻は16時30分。定刻だ。


 まあ、来るわけないよなあ……。

 

 まだ来たばっかだけど。


 マ〇ンスイーパーでもやって時間潰すか。

 それともソ〇ティアにしとくか。

 悩むなあ……。

 近くにあるベンチに座る。


 いつもよく陽キャがお昼に座ってるから僕は初めて座る。

 学校って、公共の場でも身分高そうな人がいつも使用してたらなんか使いづらい感じある。……ない?


 だけど、せっかく空いているのだから座ろう。


 そして散々迷った末、マ〇ンスイーパーにした僕。


 「陽希ャ先輩?」


 不意に、後ろから声かかけられる。

 聞き覚えのある声。

 そして、随分と懐かしい声だ。


 僕は若干緊張した面持ちで後ろを振り返る。


 「お、おう随分と久しぶりだな。悪いな急に呼んでしまって……って誰?」


 「ひどくないですか?それ」


 いや、マジで誰?

 僕の知っている女の子じゃない。

 誰だこの子は。

 

 「そこで黙んないでくださいよ!私ですよ私!!」


 「わたしわたし詐欺?美人局?」


 「違いますよ!今日あなたが人のこの後の用事も顧みずに呼び出したあなたの後輩ですよ!!」


 「まさかとは思うけどノノガッキーなの?」


 「まさかじゃなくて正真正銘の野々垣柚桔ですよ!!」


 彼女が元来持ってるその絶妙にかわいい声を荒げる。

 天性の後輩ボイスとでも言うべきか。


 「あ~、これが高校デビューって奴か?身近で初めて見たわ。いいと思うぞ!」


 僕が左手でサムズアップする。

 長かった髪をバッサリ切り綺麗な黒髪ショートボブ。

 メガネも外してコンタクトにしたみたいだ。

 実際、本当にかわいい。いや、昔から素材としてはいいものを持っていたのだ。

 やはり僕の審美眼に狂いはなかったか。

 わしが育てたみたいに言ってるけど一切育ててないし、なんならこれ以上この話をすると僕がただの変態になってしまうからやめよう。そこ!手遅れ感が半端ないとか言わない。


 「こ、これはただのイ、イメチェンですよ!ちょ、ちょっと!あんまし大きい声で言わないでくださいって~」


 しぃ!という動作をして僕に注意を払う野々垣。

 焦っているのか今も手をバタバタさせてる。

 よくよく見れば昔の面影も当然ながらあることがわかる。


 「でも、そっちの方が本当に似合ってるぞ」


 「……。そう面と向かって言われるのも気持ち悪いというか……」

 

 「えぇ……」


 難しいお年頃のようだ。


 「だから前に言ったろ。僕の独自の統計調査をもとにするとメガネはそういう属性を持ってる人以外マイナス査定にしかならんと思うぞって」


 「そもそも陽希ャ先輩はそんな標本調査できるほどサンプリングとなる友達いないでしょ」


 「友達いなくても毎日聞き耳立てて周りにアンテナ張ってれば入ってくるんだよその程度!」


 「えぇ……」


 「てか、いい加減その陽希ャ先輩って限りなく僕をバカにした蔑称やめろ」


 陽キャって言葉が世に出始めたときからわりとこれはかなり危惧していた。

 なんで自分の名前に引け目を感じなければならないのだ。

 「おい、陽希ャ!ってお前、陰希ャやないかい!」ってやかましいわボケ。

 早く廃れてくれ。

 相変わらず、僕の一人つっこみが唸る。


 「嫌なら陽キャになればいいじゃないですかー。陽希先輩が」


 左手に手を当てて野々垣が僕をバカにしくさった表情でそう言った。

 だが、その言葉は命取りだと言わざるを得ない。


 「いま言ったな。その言葉後悔すんなよ」


 「え?というか、そもそもなんで急に呼び出したんですか?」


 「君が高校デビューしたのにぼっちだって風の噂で聞いたからだ」


 「…………。相変わらずほんっっとうに性格悪いですよね。陽希先輩は」


 野々垣は「いや、先輩そんな噂してくれる友達いないじゃないですか~」みたいなことも言って来ない。いや、それは事実なんだけど。事実なのか……。


 「ぼっちじゃなきゃこんな性格悪い人間のアポなしの誘いなんか断るからな」


 「それじゃ帰りますねー」


 堪忍袋の緒が切れたのか帰り支度をする野々垣。


 「待てい!」


 「今度は何ですか?」


 しぶしぶ振り返る野々垣。

 一応は待ってくれるところを見るとやっぱりいい子なのだ。

 僕はそんないい子にぼっちとか言って煽ってるって状況が今なんだけど冷静に考えなくてもヤバい。何がヤバいかというと僕の性格と性根の腐り方がマジヤバい。


 「さっききみは僕が陽キャになればいいじゃんって言ったよな?」


 「……言いましたけどそれが何ですか?悔しかったらなってくださいよ。そうしたらもういいませんよ。陽希ャ先輩」


 僕を挑発する野々垣。

 だが、甘い。

 その挑発こそが僕の挑発に乗っている証左なのだ。


 「単刀直入に言う!僕を陽キャにするために力を貸してくれ!」


 そう言い放ち深くお辞儀する僕。


 「いや、意味がわかんないんですけど?もっと具体的に……」


 「具体的には今月中旬、僕と学校のステージでアイドルをやろう!メンバーは心理学研究同好会の精鋭メンバーもいる」


 「うーん……。やっぱり先輩はバカなんですか?」


 「今日はこれを伝えたかったんだ。急な呼び出しだったし時間を取らせて悪かった」


 「返事は明日までにくれるとありがたい。じゃな!」


 そう言い残し、僕はベンチから立ち上がり帰る。

 まだ、心研は活動しているのだろうか。

 ちょっと気になったけどまあ帰ろう。


 「……ほんとバカ」


 後ろで小さくひとりごとが聞こえたが気にしない。


 まあ、僕は指摘されるまでもなくバカなのだ。

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