正しい序列の壊し方

第22話 友情リバイバル

　「まずわれらが心研には単純にマンパワーが足りていない」

　「そりゃ二人だし」

　「そうだ。しかし！待ってても誰かが入ってくることはまずないだろう」

　「まあそうね」

　「しかし、僕のか細いネットワークを最大限使いこなして、かつ、僕の土下座と靴舐めによって引っ張ってこれそうな人材がいる」

　「あなたがいつも体育で組んでる相方とか？」

　「違う！悲しいことに彼とは事務的な話しかしないんだよ……」

　ああいう関係って「二人組組んで」という悪魔の言葉を避けるためだけにお互い暗黙の了解で成立する関係だからそれ以上親しくはなれないんだよなあ……。

　「もっと言えば、彼じゃダメなんだ」

　「どういうこと？」

　「まず、この部活未満の同好会が注目される、いや、なんかやってるなとみんなに思ってもらうことが最重要だと思ってる」

　「だから、そういった人材を連れてくる必要がある」

　人一人ができることなんてのは限られている。

　しかも、活動内容がよくわからない同好会だ。

　ぶっちゃけこの同好会に能力は必要ない。

　必要なのは知名度と……。

　「そう。必要なのは知名度と……外聞だ」

　知名度といっても悪目立ちじゃ駄目なのだ。

　悪目立ちなら僕にでもできる。

　なんなら、すでにクラスで十二分に悪目立ちしてるし、去年の入れ替えテストをめぐる一件でも僕は目立った。

　悪目立ちじゃ世界は変えられない。

　だけど、僕がやったら悪目立ちすることでも、高カーストがやればどんな行動も正当化されるのだ。

　これが学校の腐ったルールだ。スクールカーストだ。

　「言いたいことはわかったけど、その条件で杜若くんが連れて来れる人材なんていないでしょ。違う？」

　仁科さんは決して僕を馬鹿にしてるんじゃない。

　いや、正直4割くらいは馬鹿にしてると思う。やっぱり馬鹿にしてんのかよ……。

　あとの6割は意味が分からないという疑念からだろう。

　仁科さんは目の前のぼっちが何を言っているのだろうかと言外に問うているのだ。

　最底辺の人間が最上位付近の人間を連れて来れ訳がない。

　常識的に考えればそうだ。

　「言っただろ？土下座でも靴舐めでも何でもするって」

　「あまりにも清々しくて一瞬かっこいいこと言ってるのかと思ったけど涙が出るほど情けない言葉ね……」

　「むしろそこまであなたがしても大変厳しいレベルなのはわかってるの？」

　「だから、あなた辛辣すぎるでしょ……」

　たまに、こうやって純粋に嫌味を言ってくるからなこの人。

　だから、友達できない説は大いにあると思いました。

　まあ、そんなのはいい。

　「実は仁科さんが休んでいる間、英単コンの前日だな。その日、見学希望者いたんだよ。断ったけど」

　「本当に？なに断ってくれてんのよ。部長は私よ」

　「いや、きみの連絡先知らんかったし。それに僕は部長代理だ。部長がいないときは僕に権限があるはずだ」

　「私が杜若くんに委託してるのは雑用業務だけよ？」

　「僕はきみの奴隷か何かなの？」

　僕の将来の社会人生活がうっすらと見えてくるからやめろ。

　上司の雑用押し付けられて嫌といえずに死んだ目で取り組むんだろうなあ……。

　やっぱり社会人ってクソだわ。

　「希望者は望月さんでしょ」

　さすがに察しがいい。

　「確認はしてないけどその可能性が一番高いな」

　「でも、望月さんって女バスでしょ？兼部してって頼むの？」

　「無理を承知で頼む。最悪、名義だけ借りる。そして、必要があれば桃花には広報を頼む」

　「そんな都合のいいボランティアみたいな役やってくれるの？ましてやあなたの頼みで」

　「まあ桃花に関してはダメもとだ。でも、彼女を取り入れることができればこの部活は格段に知名度を増すのは火を見るよりも明らかだ」

　「その火を見るよりも明らかって表現が炎上の比喩に聞こえるんだけど大丈夫なの？」

　「そこなんだよなあ……」

　正直、陰キャの部活に陽キャ加えたら崩壊する可能性は極めて高い。それこそ入ってくれてもサークルクラッシャーになりかねない。

　それにもっと根本的な問題がある。

　こんなよくわからない同好会に桃花を連れてくのは彼女自身が万が一にも許可してくれてもそれを快く思わない人間がいてもなんらおかしい話じゃない。

　むしろ、その可能性は極めて高いとさえ僕は思っている。

　「別に変な意味じゃなくて杜若くんと望月さんって仲は良いの？」

　「仲？別に良くも悪くもないけど、まあ強いて言えば昔は良かった……方だな」

　「今は関係良好とはいえないと？」

　「いや……。彼女は優しいんだよ。心の中では疎んでいるかもしれないけど。実際は、僕が一方的に逃げてるだけなんだとは思う」

　あとは、僕と彼女の信頼関係なのだ。

　「ふーん……」

　「何その心底どうでもいいって感じ」

　「べっつに～」

　間延びした言い方が少し気に障る。

　何この子、スミネ様なの？

　気分が愉快になる粉とか持っちゃだめだぞっ☆

　「まあ明日アポとってみるよ」

　「穏便にね。難しいなら私も同行するけど」

　「ありがとう。とりあえず明日までに考えとくよ」

　さて、どうしたものか。

　計画性皆無で突っ走ってしまったけど難易度高いなあ……。