第21話 MAKING THE CLUB

 「私はこの学校に入学してすぐに苗字が変わったの」


 「母が亡くなって母の妹に引き取られて仁科になった。今年度から学校での名義も仁科に変わったわ」


 「『南方』……さんなんだよね」


 いつからだろう。

 僕はなんとなくその事実に薄々気づいていた。

 何の因果かわからないけどこんな形で会うのは甚だ予想外だけれども。 


 「去年の12月24日。素直に嬉しかった」


 「私が担任の小石川先生に呼ばれて職員室に入ろうとしたら職員室で先生に啖呵を切っている生徒がいて驚いたわ」


 彼女は最初から気づいていたのだろう。

 そうだ。

 僕程度が気づけて彼女が気づけないわけはないのだ。

 だけどこれは再会ではない。

 僕と彼女は今年の5月に初めて出会ったのだ。


 「あんなの難癖だよ。制度の欠陥を指摘して教師陣をわからせてやりたかったんだよ。それと申し訳ないけど僕は『南方さん』をきみだと認識していたわけじゃないよ」


 「性格悪いね」


 笑いながら仁科さんが言う。

 今思い返せば、あそこまで教師に突っかかったのは青春に失敗した腹いせからかもしれない。いや、普通にそうだわ。


 「むしろ僕のいいところを探してくれ……」


 「諦めは……悪くてもいいんじゃない?」


 仁科さんは少し考えたのちにまるでいたずらっ子のように僕に問う。


 「僕はもう努力はしたくないんだ。それに……」


 「それに……?」


 僕がこれから言おうとしていることを言ってしまったらすべてが台無しになってしまうのではないかと思い躊躇った。


 僕は今幸せなのだろうか。


 僕の今の望みは何なのか?


 仁科さんは不幸せではないといった。

 しかし、僕は仁科さんが幸せだとは言わなかった理由は何だろうと邪推をしてしまう。

 それは、何なのか。


 クラスの人間、いや、学校の人間は彼女をもっと評価するべきだ。

 彼女は魅力的な人間だ。

 まさに才色兼備なのだ。性格はさておき……。

 僕と一緒にくすぶっていい人間じゃない。

 なら……。


 「いや……。スクールカーストを壊すんじゃない……。君をピラミッドの頂点に僕が仕立て上げてやる!」


 「何言ってるの?」


 本気で意味が分からないといった顔をする仁科さん。

 わかってないと言わざるを得ない。

 小声で「だから、ピラミッドじゃなくてつぼ型……」とか言ってるのはあえて無視する。


 「君は自分の魅力に気づいてない!」


 「なにそれ告白なの?」


 「違う!」


 これはそういった類の話じゃないのだ。

 単純に純粋にここで甘んじてていい人材じゃないのだ。仁科さんは。

 本来は、カースト上位でになるべき存在だし、理数科へ行くはずだったのだ。

 今になって、あの時の怒りが沸々と蘇ってきた。


 「言っとくけど、理数科への未練は一切ないよ。もう」


 彼女は僕が考えていることを察したのかそう答える。

 そう。

 入れ替えテストは1年生が2年生へと進学するタイミングにしか行われないのだ。

 それに今までの仁科さんの様子や態度を見るに本当に理数科への未練はないように思える。

 

 「具体的に言おう。近日中に、心理学研究同好会の活動を本格的に始動させる」


 「はぁ……。意味わかるけど意味わかんないんだけど……」


 仁科さんはそう言って一息入れる。


 「でも……。部活動を盛り上げるのには部長としては当然賛成よ」


 そう言うと思っていた。

 この人はなんだかんだでノリがいいのだ。

 小石川先生と僕の無茶ぶりにいつもついて来てくれる。


 「じゃあ決まりで!」


 こうして僕たちの熱い部活動が開幕した。


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