第19話 明日もきっと最低点
6月。
英単コンの成績優秀者が教室の後ろに張り出された。
僕の名前?
まあ、あるわけないよね。
「40点満点で8点!?うそでしょ?」
「驚き過ぎでしょ……」
「バカすぎでしょ。さすがに。バカなの?」
「2回も言わなくていいでしょ?」
放課後。いつものように部室に来て駄弁りながら各々好きなことをしてる。
仁科さんは怪しげな心理学の本を読んでいる。僕はラノベ。てか、心理学の本ってどれも怪しげな気がする(超偏見)
これ言ったら仁科さんに無表情で殴られそうだから言わないけど。
「撥音全部間違ってるとかこれ狙ってやってるの?」
「やってねえよ!英語で会話しない英語教育に問題があるんだよこれは。僕はその被害者だ」
「ディ↑スカバリーじゃないのよ。ディスカ↑バリーなの。わかる?」
「知らんがな。だいたい日本語ですらクラスメイトと会話のキャッチボールできないのに他国の言葉でできるわけないんだよ……」
「あなたグローブすら嵌めてないじゃない……」
「むしろ相手のコントロールが悪いんだよ!そもそも日本から出ないからいいんだよ……」
「小学生並みの言い訳ね……。よくこの英語力で英単コン上位狙おうなんて言えたわね」
「こんなの暗記ゲーだからな。読解力は関係ないし限られた範囲だから誰でもやればできる」
「やりなさいよ!」
「今回は許してくれ……」
そう。今回は仕方がないのだ。実際問題1日徹夜してやればそこそこいい点は取れるレベルだ。でもあくまで徹夜でやってもそこそこだろうしそんなんだったら8点と一緒だ。
「まあ今回は仕方ないし私も受けてないからあまり強くは言えないわ」
「十分強く言ってたと思うんですけどそれは……」
「まずあなたこんなに頭悪かった?成績自体はそこまで悪くないはずでしょ」
「え?なんで?」
成績について仁科さんに何か言ったことがあっただろうか。
話の流れでジョーク的に言ったかもしれない過去の僕の発言を真に捉えて頭いいと勘違いしてるのだろうか。
「なんでって……。大人しい感じの人って頭よさそうじゃない?」
「何その最大限オブラートに包んだ結果、逆に失礼になってる感じ。てか、あれだからな?頭いい奴は大人しいガリ勉っぽい奴じゃなくて意外と私生活充実してる感じの人のほうが頭いいっていうね……。現実は悲しいんだよ……」
「……ごめんなさい」
「わかればいいんだよ、わかれば……」
お互いに気まずい沈黙が訪れる。
なにこれ。
僕が謝ればいいの?
陰キャでごめんなさいってなんでやねん。
心の中で一人激寒ノリツッコミをして僕が楽しむ。
そう、ぼっちはいつでも想像力を働かせれば脳内アミューズメントパークなのだ。
「それで、どうするの?」
僕が脳内で楽しんでいる最中に仁科さんが僕に問いかける。
言葉を省きすぎて要領を得ない。
「何が?」
「結論から言えば、無理よ。スクールカーストをなくすなんてこと」
「そうかもな……」
「そうよ。杜若くんが企てた作戦は実行どころか私たちはその土俵にも立てなかった。この事実はどう考えても私たちの力では覆すことはできない。たとえ小石川先生の力を借りたとしても」
そうだ。
小石川先生も言ってたじゃないか。クラス内の序列を壊すなんてことは無理だって。
大人でも解決できない問題に仁科さんはまだしも頭の悪い僕に何ができるんだ。
そもそも……。
「そもそも……。杜若くんはそこまでしてスクールカーストを壊したいっていう強い意志はあるの?」
「え?」
「スクールカーストを壊そう」と言ったのは小石川先生だ。それに僕が乗っかた形だ。
ここで仁科さんの過去の発言を思い出す。
「私は学校生活なんてこんなものなのかなって思ってる」
仁科さんは心理学にどこまで興味があるのか知らないけど高校生らしいことをしたいせっかくのJKなんだからと言っていた。
「クラスの立場でいえば私は低カーストで間違いない。でも、だからといって不幸なわけでもない。だけど……」
僕が何と言おうか迷っている間に矢継ぎ早に話す。
「だけど……。あまり言いたくはないのだけれど小石川先生は間違いなく私を心配してくれている」
彼女は何を言わんとしているのだろうか。
いや、僕はわかっているのだ。
今のいままで現実から目を背けてきたのだ。
「私の一年前を知っている数少ない人だから……」
数少ない人。
その言葉が僕の脳内に反芻した。
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