第12話 お弁当、ひとりで食べた

 金曜日。一週間で一番愛してる曜日だ。学校が終われば至高の時間が訪れる。4時間目体育の授業が終わった。連日の流れで仁科さんとお弁当を食べる……ことはなかった。どうやら、体育終わりの流れでそのメンバーで囲ってお弁当食べている。他人をスクールカーストで分けたりするのは気持ち悪いとは思うけど、そのメンツを見るといわゆる地味目なオタク系女子って感じだろうか。その中で、贔屓目とかではなく客観的に見て仁科さんは浮いてるなと思ってしまう。仁科さんはその容姿もさることながら普通に身だしなみに気をつけているのでその集団だと特に目立つ。


 まあ、ぶっちゃけ身だしなみとかめんどいよね。


 僕も高校入学当初は少し頑張ってたけど今は髪とかもうボサボサ。どれだけ整えても誰もぼっちなんか見てないんだよなってのを理解した瞬間何もかもがどうでもよくなったよね。


「誰もお前のことなんか見てねーんだよ」というもう一人の僕のおかげで僕は今日も張り切らず頑張れる。自分で言っといてアレだけど張り切らず頑張れるって矛盾してない?


 人間、自分なんか誰も見てないって思ってしまうとオシャレなんかしなくなるものだ。


 オタクなんかはその典型的な例だと思う。リアルを諦めた結果、自分がモテないとかイケてないって現実を自身が「オタクであること」に責任転嫁しまっている。


 そうして、オタクたちは徒党を組んでしまっているからオタク趣味がコミュニケーションツールになっているのだ。その造詣が深いほど自分のコンプレックスが薄まるのだ。


 こんなことを言うと、オタクだってモテるとか、高カーストはいるとか言う奴がいるかもしれんが、そういった人間のイメージを先行して、クラスは、学校は、社会はわざわざある種マイナスイメージも孕んでいる「オタク」という属性にカテゴライズしないのだ。


 余談になるけど、僕もアニメやゲームやアイドルなんかは好きだ。けれど、オタクたちと仲良くやるためにオタク趣味を合わせることすらできないレベルの社会不適合者が僕なのだ。伊達にぼっちやってない。まず、奴らの知識量と守備範囲とにわかは相手にならんよ感異常じゃね?例えば、アニメの話で今期は何本〜とか覇権は〜とかの話になったらもうお手上げ。さっぱりわからん。


 そんなのはどうでもいい。僕もいつもの日常が戻っただけだ。


「どう?部活は?」


「ワッ!?」


 僕がいつものように他愛もないことに想像を膨らまして機械的にお弁当を食べているせいで気がつかなかったけど目の前に小石川先生がいた。


 「どっから湧いてきたんですか?」


 「人をむし扱いか」


 「この土地にGはいないからまあセーフじゃないですか」


 「お昼時にその話はNGよ。Gだけに。しかも、今のはアレだぞ。無視と虫とのダブルミーニングだぞ♪」


 「いや、それ自分でいうのは……。なんていうか……」


 流石に現国教師となれば違うな……。感性が。会話のドッチボールが続く。


 「まあそんなのはどうでもいいの。部活は上手く行ってるの?」


 「普通に部活の名前に即した活動もすることに決まりましたね」


 「心理学研究……。そうきたか」


 「いや、そうきたかも何も本来そういう部活じゃないの?」


 あまりにも突拍子もなくてビビる。僕の所属している部活って何だっけ?てか、この人本当に顧問なの?


 「まあ、紆余曲折ありますけどまあなんとか大丈夫なんじゃないですかね」


 「私も暇つb……、時間がある時には顔を出すようにするから」


 今、この人暇つぶしって言おうとしなかった?気のせいですかね?


 「そもそも同好会でも部員2人で大丈夫なんですかね……?」


 「規約では3人だな。私もいるから大丈夫でしょ?」


 「いや、顧問含めちゃいかんでしょ……。まず、年齢的に学生って歳では……」


 「ちょっ!私だってまだピチピチのにじゅ、いや、これ以上はいけない」


 煽ってみたけどやはりダメか。いったい、20何歳なんだ……。


 「先生は十分若いから大丈夫ですよ」


 「年下にそれ言われると何だかなあ……」


 「どっちなんですか……」

 

 難しいお年頃らしい。


 「部員数については私がなんとかする」


 「3人はやめてくださいよ!3人は!下手すりゃ死人が出る。主に僕が」


 3人組は危険だからやめてくれよ……。2人組より3人組のほうがしんどいってそれ一番言われてるから。


 「私としても部の目的上少数精鋭でいきたいからあまり部員は増やしたくない。管理もめんどくさくなるし」


 いや、あんた管理なんかしてないでしょって思ったけど黙っとく。


 「最悪、名前だけ借りるから」


 「教師がそれ言っちゃうんですか……」


 「まあ、当面の間は2人での活動だと思ってくれていい。仲良くやってね」


 「彼女は部員欲しいのかもしれませんけどね」


 「そうかもね」


 小石川先生はそう笑いながら言いながら言葉を続けた。


 「でも、まだ君にはわからないかもしれないけど彼女も彼女なりの葛藤や悩みを抱えているからね……」


 その通りなんだろう。けれども、彼女と数日しか関わっていない僕なんかが勝手に推察してうぬぼれた同情なんかはしない。そんなの思い上がりもいいとこだ。それとあわせて、カースト最底辺の僕が一番人間関係で苦しんでいるとも限らないことを認識しなければならないと改めて感じた。

 

 誰だって、人にはあけすけに言えない人間関係の悩みの一つや二つくらいあるはずだ。

 それは、今教室で一際盛り上がっているいわゆる高カーストと呼ばれる彼ら彼女らだってそうなのだろう。……本当にそうなのか?いや、そうであってくれ。あんなに仲良くしてるのに各々心の中ではうんざりしてるとか考えたら気分が高揚してくる。テンション上がってきたあああ!!(クズ)


 「まあ、適当に活動していくつもりですよ。今のはダブルミーニングですよ」

 

 「適当って言葉はふさわしいって意味もあるのにいい意味でって補足しないと真逆の意味に捉えられるのって日本語の欠陥だと思わない?」


 「英語の教師にでもなってくださいよ……」


 そこを日本語の妙と言うのが教師なんじゃないの?この人マジで何で国語の先生になったの?

 

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