第10話 トレース≠アドレセンス
昨日は英単語コンクールを利用した作戦を伝えてから仁科ジョークに僕の心が折れたのもあってその後たいした話もせず帰らせて頂いた。一緒に帰れよって?いや、それこそ一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし……。
そんな昨日の今日で、午前の授業が終わり昼休みを迎えた。昨日は、仁科さんと社会に出られない云々の話をしたこともあって珍しく布団の中で将来の自分の進路について考えていたらどう考えても就活に失敗してそのまま社会を憎みながら親のすねをかじりひきこもる自分の姿がまざまざとまぶたに浮かんできてどうも眠れなかった。そんなこともあって今日はすこぶる眠い。僕はこのままでいいのだろうか。僕が変わらなければいけないのだろうか。いや、間違っているのは社会だ。なんで僕が周りに迎合しなければならないのか。そもそもできない。社会が僕について来いよ。今の労働事情を考慮すれば大学を卒業して正社員としてどこかの企業に新卒で就職するなんて旧時代的だ。
「てなわけで、僕は大学を卒業した暁には非正規で1日4、5時間程度の労働をしながら、動画配信者とか小説執筆でワンチャン狙いたいんだよ」
お昼休み、昨日と同じく仁科さんが自然と振り返りその流れでお互いなんとなくお昼ご飯を食べ始めて沈黙に耐えられなかった僕が適当な話題を話す。てか、僕たちは付き合っているのかな?最近になってようやく気付いたけど仁科さんもほとんどぼっちなのだ。まあ、体育の時間とかを見てると一応大人しめな女の子の集団に入って普通に会話してるのも何度か見たので僕ほどの「プロ」ではない。いや、別に体育の時間バドミントンの相手がいないからコート外でひたすら宙で羽を上げてるのが苦痛になって女子を観察してたわけじゃないよ?本当だよ?
余談だけど、二人組組めとか言われたら隣のクラスの「プロ」と組むからその辺に抜かりはない。ぼっちを極めし者たちの間には会話なんていらないのだ。お互い察しあって最低限の会話で二人組を組み黙々と競技に取り組む。それでいいのだ。友達になればいいじゃんて?人間関係そんなに単純ならみんな悩まないし、そんなことできる人ならぼっちなんかにならないんだよなぁ……。
「何がてなわけかわからないし、そもそも非正規なら働けるって考えが甘いし、そもそも大学中退しそうだし、そもそも浪人しそうだし、そもそも浪人からのドロップアウトありそうだし、そもそももうドロップアウトしてそうだし、そもそも……」
「僕の人生ハードモード過ぎませんかね……」
「どちらかといえば、私たちナイトメアモードに片足つっこんでる感じじゃない?」
「卑屈すぎるでしょ!もっとポジティブに生きようポジティブに!」
「私は今の現状を正確に判断しようとしてるだけよ」
「そもそも、僕はアレだとしても仁科さんはそこまでじゃないでしょ……」
「なんで?」とか言われたら色々と困るので少し僕の語気が弱まり視線を逸らしがちに言った。
「一緒だよ。あなたも私も」
僕の独り言ともとれるその発言に仁科さんは真剣な表情でそう言い放った。周りの喧騒とは裏腹に張り詰めた空気が僕たちの間に漂い、僕はおどけた返しもできず脳内CPU使用率100%になってしまった。コミュ力ないのに上手いこと言おうと考えるからこうなるんだよなあ……。
「でも、立場は一緒だとしてもあなたはプロだからそういう意味では先輩というか、上司というか、師匠みたいな感じね……。だから、あなたの域にまでは達していないという意味ではあなたの言うとおりね」
「どういうフォローなんですかね……」
僕が難しい顔をしていたから、無駄なフォロー(?)をさせてしまって本当に申し訳なくなる。はっきり伝えないで本音を隠していたらいつの間にか人間関係が壊れてるなんてのはよくある。いや、僕の経験談じゃないよ?ただの、一般論なんだからか、勘違いしないでよねっ!まあそんなことはいい。僕には失うものなんかないのだ。人間関係なんてものは最初からない。この際だから言ってやる。
「僕が言いたいのはアレだよ。きみ、普通にかわいいし……面白いし……」
「……それはあなたの感想よ。しかも、女の子に面白いって言ってもそこまで喜ばないと思うけど……」
「いや別に仁科さんを喜ばすために言ってるんじゃなくてきみはこのカーストに甘んじてはいけないと思うよっていう話だよ」
「なんだろう。コミュ力ないよね」
「ただの悪口!?」
僕の何気ない発言が仁科さんの怒りを買ってしまったらしく普通に罵倒されてしまった。またオレなんかやっちゃいました?これだから人間関係は難しいし嫌いなのだ。
「そんなことは今どうでもいいのよ」
「……そうですか」
「あなたが提案した例の作戦は5月末のテストからやるんでしょ?」
「もちろん」
「じゃあ、その間部活は何をするつもりなの?」
「それこそそれに向けての勉強でもすれば……」
「それだけ?わざわざ部活の時間を、いや、貴重な青春の1ページをそれだけに?」
「いや、それは……」
言葉が詰まる。確かに、それなら家で各々勉強すればいいしな。……あれ、この部活いらなくね?
「放課後。待ってるからね」
仁科さんはそう言い残しちょうど食べ終わったお弁当箱を片付け席を立って行った。
何を言いたいのかまったく分からなかった。いや、暇だし行くんだけどね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます