第7話 ぼっちむてき宣言!

「まあ結論から言うと、スクールカーストは壊すのは無理よ」


「「えぇ……」」


 僕と仁科さんから同じ言葉が出る。この人スクールカーストぶっ壊すとか散々語っておいてそれはないわー。この人ないわー。


「でも緩和はさせることはできるんじゃないんですか?」


 仁科さんが久しぶりに話す。この人、やる気なさそうに見えてこんなとりとめのない話題によくついてくるなあ……。


 クソ失礼なことを考えていると小石川先生が食い気味話す。


「そうなんですよ!そこで、もう一度スクールカーストの条件を考えると流動性があることに加えて同い年であるというのがミソなのよ」


「あ、わかりました!つまり、小石川先生が学級を支配してファシズムさながらの恐怖政治で生徒をしばいてくって魂胆ですね?」


「……非常に不愉快極まりないが君の意見は方法の一つとして一理あるんだよ」


 小石川先生が話を続ける。


「部活動や習い事ような学年の違う集団では生徒間で基本的に理不尽な序列は形成されないわ」


「確かにそうかも……」


 仁科さんが考え込む。これまでの僕の浅い人生を思い返しても経験則的にその通りだ。クラスでの生活ではカーストが下の方でも部活ではそんなことはないなんてよくある話だと思う。スポーツとかだとレギュラー、ベンチ、ベンチ外のメンバーのように序列があったりするけど、それはある程度本人たちも納得のいく序列なのではないだろうか。まあ、中には監督に嫌われてベンチみたいな奴もいるんだろうか。ちなみに、僕は監督に嫌われてたし、実力もなかった。そんなことはどうでもいい。


「だから、教師という立場は序列を壊せる存在だけど、能力も人望もない私にそんなの無理だし……。仮にできても人生を易々とハードモードにしたくないよぉ……あんなに就活苦労したのに……」


「申し訳ございません。全面的に僕が悪かったです」


 小石川先生が一介の女の子「小石川紗弓ちゃん」になった気がして意地の悪いことを言った自分に対して自責の念を感じて突発的に謝る。一瞬、かわいいなとか思ったけどこの人に対してはそんなの改めて思うことじゃなくてタイプの女性とかそんなの度外しして一般男性が十中八九は振り返るほどレベルの美人なのだ。


「わかってくれればいいのよ」


「……ほかの方法ってないの?」


 仁科さんのその言葉を受けうーむと考える。


「そもそもの話になっちゃうんですけど……」


「なになに。遠慮なんかしないで話しなさいよ」


「今からガチクズ発言しちゃいますけど大丈夫ですかお二方?」


「いいから話なさいっていってるでしょ」


「何その宣言……。いや、いいけど」


 これで、二人の了解の言質は取った。だから、建前抜きに本音で話す。


「正直、スクールカーストはあってもいいんですよ。僕的にというか生徒的に」


「「え?」」


 困惑する二人。そりゃそうだろう。スクールカーストをなくす話をしているのにこの男は何をいっているのだろうか。さしずめそんなとこだろう。


「たとえば極端な話、僕がピラミッドの頂点だったら存在してていいんですよ」


「……スクールカーストってピラミッド型というより釣り鐘型とかつぼ型じゃない?現に杜若くんって唯一無二の層に属してるじゃない」


「仁科ちゃん。格好いいこと()言ってるんだから素直に聞きなさい。あと、あなたが言ってることはロジハラよ」


「もう帰っていいっすか」


 場を凍り付かせたと思ったらカウンター食らってこっちが凍らされたわ。仁科恐ろしい子。でも、ここで逃げちゃだめだ。核心を突いてやる。


「そんなことは置いといて!ようするに僕がトップカーストになっておいしい思いができれば下々の民が苦しんでようと知ったことじゃないんですよ!!」


 言ってやった。とびっきりのクズな発言をしてるなんて重々承知だ。でも、これは大抵の生徒の基本マインドだ。人間なんてのは利己的な生き物なのだ。きれいごとだけで成立するほど世の中は甘くない。


「でも、杜若くんが現状の層ですらないカースト外の立場から上位層に移ることは到底できないと思うし、仮に移れたとしてあなたは上位層と仲良くしたいと思ってるの?」


 仁科さんが今まで以上に真剣な表情で僕に問う。はたから見ると厳しい言葉に聞こえるが、冷静に真実だけを僕に突きつける。


「それは違う。だからといってみんな仲良くなんてのも建設的じゃない。だったら……」


「だったらきみはどうするの?」


 小石川先生が僕を試すようにそう言った。


「だったら、クラスの奴らが僕より劣っているって感じてくれればいいんですよ。その時点で少なくとも僕、いや僕たちはランクに見合ったクラスごっこはしなくて済む」


「……そう。って僕たちって何よたちって」


「そんなの決まってるだろ。僕と先生と君でイキり散らしてる陽キャたちがいかに劣った存在だって示してやるんだよ!!」


「それ、私怨混じってますよね……。大丈夫ですか……?」


「いかにも、陰の者って感じね……。まさに杜若くんが陰キャたる所以ね」


 二人が盛大に引いていたが、僕はここで高らかに陽の者たちに宣戦布告した。


 ……てか、教師が生徒に対して面と向かって陰キャってかなり問題発言だと思うんですけど、それは大丈夫なんですかね?

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