第6話 Red Ocean School Caste
小石川先生がドアを開けるとそこには女の子がいた。椅子に座った綺麗な黒髪セミロングの女の子が長机に右手を置きスマホをいじり左手はぶらんと下におろしていた。その姿に少し見惚れてしまう。
「こんにちは。紗弓先生。それと……。杜若くん」
「へっ!?こ、ここ、コンニチハ」
覚えたての日本語を話す留学生みたいな日本語になってしまった。なんで、この子僕の名前知ってるの?
「何で名前知ってるんです?」
「いや、一応クラスメイトでしょ……。しかも、あなたの前の席なんだけど」
あー。やってしまいましたなあ。マジかあ……。あまりにも完璧な世界観を構築しすぎてマジで周りがNPCになってたわ。最近席替えしたから仕方ないね!
けれども、僕はこの子を知っている。たぶん。
「えぇ……」
小石川先生が割とマジで呆れというか蔑みにも似た顔をしていた。
「いや、もちろん知ってますよ。なん??じゃなくて……みなm」
「にしなです」
なんとか目の前の女の子を思い出そうと普段使わない脳をフル回転させた結果がこれだよ。人間関係に脳のリソースを使わなさ過ぎてエンジンがかかるのに時間がかかってしまった。いや、覚えてたんだよ……?覚えていたのか……?覚えてなかったわ。いや、覚えている(確信)
「そう!菫音……さんでしょ。覚えてる!覚えてる!」
「下の名前はすんなり出てくるのが少しホラーね……」
小石川先生が言わなくていいことを言う。僕の優秀な海馬が逆に仇となってしまったようだ。僕の調査によると全国の男子諸君はかわいい女の子の下の名前は覚えてるんだよ。女性陣にはわからんと思うがな!
「……私はあなたの下の名前は知らないんだけどね。ごめん」
「いや、言わなくていい事実もあるんだからね?」
逆に、「陽希くんでしょ!知ってる!!知ってる!!」とか言われたら、可能性感じちゃうからそういう意味ではこれでいい。一切興味のない男の子にそういうこという女の子はやめようね!お兄さんとの約束だぞっ!全国の男子諸君を守るためにも悲しみの連鎖は断ち切らなければならない。
「能書きはこの辺にしてさっそく活動に取り組みましょ!」
「いままでのくだり能書き扱い!?いきなり言葉遣い悪くなるな……」
現国教師の独特な言語センスに驚かされつつも個人的にさっさと活動に入りたかった。というのも、基本他人とビジネスライクな話以外できないのだ。人との会話は本当に面倒だ。他愛のない話でも地雷を踏んでしまっていたり踏まれてしまったりする。本当に面倒くさい。そういう点で、ビジネスライクな関係は目的に向かってどこまでも事務的に話ができるのがいい。
「で、どうやってスクールカースト壊すんですか?」
「まあ、焦るな。まず、君はスクールカーストが存在する条件は何だと思う?」
「条件ですか?」
そんなことあまり考えたことはなかったがスクールカーストはどの学校、どの学級にも存在するものだと思っている。うーむと考えていると先生がヒントをくれる。
「ヒントを言うと大学はこの条件が当てはまらない。だから、各々の大学の特性もあるだろうけどスクールカーストは存在しない場合が多いわね」
「大学生じゃないからわかりません」
「あなた真面目系バカよね」
「パワハラですか?法廷で会いましょう」
ポーズで帰る支度をしながら隙を見て本当に帰ろうとしていると思わぬところから答えが返ってきた。
「つまり、流動性がないってことですよね」
そういえば、仁科さんいたんだっけ……。この人見た目はかわいいのになんか影薄いな……。
「さすが仁科ちゃーん!わかってるねぇ」
「確かに1時間目から6時間目まで同じメンバーで、しかも、毎日過ごしてるんだからなあ……」
普通の学校で他の学級に移動したり、転校したりなんかまずできない。だから、固定化された人間関係が続いてしまうというのが一番のネックなのだ。
「そう。そこなのよ。つまるところ、学校で協調性なんか学べないのよ」
「それ、教育者としてどうなんですか……」
「実際現場はそうなのよ特に進学校は。教師からしたら勉強以外の教育なんか義務教育で済ましてもらいたいし構っている暇もない。ましてや面倒ごとなんかに突っ込みたくはないと思っているのが大半」
その言葉には、僕の言ったウィットに富んだ冗談交じりのつっこみなんかに付き合わずに真剣な表情で先生は話す。
「でもそれって、もはや学校の意味がないと私は思うのよ。そんなの予備校等で事足りるしそもそも学校という存在自体が前時代的なのよ。学校なんかオワコンよオワコン」
「なんで教師になったんですか……」
あまりにも教育現場についてあけすけに話す小石川先生を見てさすがに仁科さんも困惑した表情だ。
「そういった教育に納得がいかなかったからよ」
素直に格好いいと思った。できるかどうかは別としてこの人は本当にこういう考えをしてくれる人がいる。それだけで嬉しかった。
「こほんっ。話を戻すわ」
ナチュラルに格好いいことをいってしまったのがよほど恥ずかしかったのか小石川先生は少し顔を赤らめながら話題を戻す姿が少し、いや、とてもかわいいとおもいましたまる。
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