第5話 おいでよ!心理学研究同好会
小石川先生の衝撃的な宣言をされたその翌日、僕はいつもと変わらない1日を過ごし放課後になった。
……ってあまりにも描写少なすぎでしょ僕の青春。いや、こういう何でもない1日がかけがえがないと思う日がいずれ来るのだ。戻れない高2の春を想い、いつかその日々を悔いる日が来るのだ……。こいつ、いっつも悔いてんな。
あまりにも何も変化のない毎日を過ごしすぎて、こういったしょうもないことを無限に考えられる特技を身につけてしまった。なんなら、世界なんか毎日救ってる。
あと、健全なぼっちライフを送るには世界観の構築も肝要になってくる。かくいう僕も色々な世界観を構築してきたけどやはり自分以外この世に意思を持った人間は存在せず、ほかの人間は全員NPCだという設定に落ち着く。「NPC」、そうノンプレイヤーキャラクターの略だ。コンピュータ相手なら深い関係を作れないのも当然だし、羨望や嫉妬もその他諸々の感情を抱く理由も当然ない。だって、コンピュータなんだから。だから、男同士でバカやって楽しんだりしてる彼とか、女の子とキャッキャウフフな会話を楽しんでる彼を見てても全っ然、これっぽっちも、微塵も興味ないし羨ましくなんかないんだからねっ!本当だよ……?
気分が悪くなってきたので、ロッカーに使わない教科書類をしまい一目散に教室を出る。小石川先生には昼休みにとりあえず放課後職員室にてと言われたので、とりあえず職員室に向かう。
職員室を3回ノック(重要)し入ると少々きついコーヒーの香りが漂ってくる。てか職員室って何でこんなにコーヒーの匂いするん?コーヒー飲む前に仕事しろよ仕事~。
小石川先生の机は2年生の先生たちの机の島の一番右端だった。いつものようにバシッとスーツを着て仕事ができるオーラを醸しながら、コーヒーを飲みつつ普通にスマホをいじっていた。仕事しろ仕事。
「お疲れ様です」
適当に労いの言葉をかける。人との会話なんて何話していいかよくわかんないからね!関係が希薄な人は特にねって思ったけどこの学校のおよそすべての人間に対して関りが薄かったから関係なかったわ(ダブルミーニング)
どうもかきっちです!
「あら。本当に来てくれたのね」
「……帰りますよ」
普通に、かちんときたわ。
「うそようそ。あなた目上の人相手なら意外と礼儀正しいし約束とか守りそうだからその辺はしっかりしてると思ってたわよ」
「さらっと僕の核心を突くような発言はやめてください……」
そもそも擁護すらされてないし思うところがありすぎて普通にドキッとしたわ。
「ついて来て」
小石川先生は誰かとメッセージアプリで連絡していたのかメッセージアプリを閉じスマホをスマホをしまう。彼ピッピと連絡とってたのかしらん?とか邪推しながら先生についていく。仕事しろ仕事。
先生の横に並んだが当然会話はなかった。沈黙が気まずかったので今日天気いいですね!とか言おうと思ったけど普通に雨降ってたわ。というか、今日天気まで言ってた。
「今日天気ぃ……」
「テンキー?テンキーがどうかしたの?」
どういう間違い!?ここでこのタイミングでテンキーの会話する奴どこにいるんだよ。
「いや、今日テンキー買いに行こうかなって……」
はい、ここにいまーす。テンキー買いにいきまぁす。
「ああそういうことね。私も今日テンキーが効かないと思ってたらNumLockがおささってたみたいでね。あのキーっているのかしら?」
「ああ、なるほどですね。アレはいらないんじゃないっすかね」
「そうよね」
適当に返事しといたけどなんだこれ。NumLockってなんだよ。いや、わかるけど。なんで、20代の美人とこんなつまらない会話をしなければならないのか。事の発端は僕が良かれと思って中途半端に話題を振ったのが原因だ。小石川先生は悪くない。ぼっちはぼっちらしく振舞えばいいんだよ。慣れないことをするからこうなる。もうこんなのはやめにしよう。
まず、20代女性と交わす面白い会話とはなんなのかを考えながら、そもそもそんな仮定に意味はあるのかを自問自答しながら無言を貫きながら目的の部屋にたどり着く。
「ここよ」
「相談室」とだけ書かれた扉がそこにあった。ようするにアレだ。小・中学校の時にもあった「こころの部屋」とかそんな感じの教室だ。こういうの全般に対して思うんだけど名前が相談しにいきづらいよなあ……。
「こころの部屋ですね」
「それね。そういった名前やこういう部屋を訪ねることが生徒にとってスティグマにならないかが心配だけどね」
「まあ、心配といってしまうこと自体が問題から逃げているのだけれどね……」
小石川先生が少し自嘲気味に薄ら笑いをする。僕がまさにそう感じていたことを言ってのける先生に驚く。昨日から感じていたがいい意味で先生らしくない先生だ。
「よし、入るか」
ノックを2回する先生。ノックは3回ですよ3回!!というか、誰もいないのに何でノックするの?誰かいるの?閉ざされたドアの向こうに新しい何かが待っているの?
「はーい。どうぞー」
「へ!?」
頭が真っ白になる。ドアの向こうに女の子の声がするの?嵌められたか?美人局か?怖い人も同行してるし……
「部活。始めるよ」
先生は不敵な笑みを浮かべた。さっきの卑屈気味の笑顔は消えていた。その笑顔が一番素敵ですよって言いたかったけどその言葉はそっと心にしまっておいた。
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