第3話 生徒指導初級編

 10分前行動を日々心掛けている僕は約束の5分前に生徒指導室に着いた。

 ……いや、あれだよ? 

 これは、5分前行動厳守とかうるさい奴が世の中にうじゃうじゃいるから10分前行動することによって心に5分余裕をもって行動できる頭脳プレイだからね。

 あと、第一印象で時間も守れないクズだと思われたらその印象が永遠に続くからね(実体験)

 

 生徒指導室のドアを3回軽くノック(重要)して中の反応を待つ。

 よいこのみんなは3回未満のノックは大変失礼だから気を付けようね!

 てか、2回のノックだとトイレの在室確認とかいう意味不明な不文律みたいなマナーってなんなの?トイレ以外で用を足してる奴いたら結構なホラーだろ。


「どうぞー」


中から声が聞こえたのでドアを開ける。


「失礼しまーす」


 生徒指導室って初めて入ったけど、応接間みたいな感じで教室で使っているちゃっちいものではなくいい感じの机といすが用意されていた。


「どぞどぞ~。ささ、ヒーコーでも飲んでリラックスして」


 小石川先生がバカ丁寧に僕の座る椅子を引きオーバーリアクションで座らそうと勧めてくれる。


「いったいなんなんですか…」


 かなり困惑しながら椅子に腰を下ろす。見た目以上にふかふかでいいなこれ。


「杜若陽希くん。え~、文系志望なのね。成績は絶妙に何とも言えない成績ね…。中の上の下って感じ?」


「いや、そこは中の上でいいいでしょ。そこまでいうなら……」 


 僕の情報が色々記載されているであろう書類を小難しそうに顔をしかめながら、うーんと唸っている先生を見るとこっちが申し訳なくなってくる。コーヒーにっが。


「しかも、定期テストの成績は結構いいのに、模試の成績は平均以下はかわいそうね……」


「やめて!」


成績のことで一番気にしている核心部分を突いてくる。


「これは君が悪いんじゃなくて学校側が悪いのよ。定期テストの対策が受験に直結するとか言ってる教師側の人間にこの現実を見させてあげたいわ」


「あなた、教師側の人間というまぎれもなく教師だからね?」


「推薦とかは考えてはいないの?君の成績ならまともに受験するよりは楽に進学を決められると思うけど」


「推薦ですか……」


 成績云々を抜きにして僕はこの学校から推薦される人間かと問われると一抹の不安が残る。


 部活に真剣取り組んでいるわけではなく帰宅部。課外活動だって一切したことはない。かといって、勉学に打ち込んでいるといえる成績には到底達していない。友達一人いない人間に果たしてそんな権利はあるのだろうかとか考えているとわりかし鬱になってくる。


 僕の鬱オーラを察知し忖度してくれたのか先生がこう切り出す。


「えーと、時間はまだあるし選択肢の一つとして考えてくれればいいのよ進路なんか」


「そんなもんですか…?」


「進路なんてそんなものよ」


 教師としてそれはいいのかとか少し思ったけど、結構いい考え方だな。この先生……さてはできるな?


「それと……。あなた、理数科で入学したのね?」


「そー、ですね……。確かぁ……」


「歯切れ悪いわね。……まあ、無理に詮索はしないわ」


 そう、僕はここ白銀北高校に理数科で入学した。この学校は7クラスあってその内5クラスは普通科、残り2クラスが理数科となっている。理数科は普通科より偏差値が5くらい高くなっている。それで、今は普通科にいる。その理由は有り体に言えば勉強についていけなかったという単純なことだ。僕としてもあまり話したい話題ではないのは確かだ。


「……だけど、そのうち話してもらうわ」


「まあ、そのうちですね……」


 先生は微笑を浮かべながら小悪魔気味にそう告げてくる。だから、人との約束の断り文句の伝家の宝刀「まあ、そのうち」をつかった。ちなみに、ほかにも「いけたら、行く」とかがある。


「成績のことはこの辺にしといてー、新しいクラス……、学校生活はどう?」


 なにその母さんの「……学校楽しい?」みたいな絶望的な質問。

 

 まるで、就活生があらかじめ用意してきた回答が当日緊張で一切言葉ができなくなった瞬間のようだ。就活したことないけど。


 僕が、時を何秒か止めてもう帰ろうかなとか逡巡し始めた頃。小石川先生が沈黙を破った。


「あははははは。冗談よ冗談」


「何が冗談なの!?」


 そのあまりにも意味不明な言動につい僕の声が大きくなる。


「これから話すことが私が君との面談で話したかったことよ。私からあなたへの指導であり、私の夢でもあることをね」


「……ほわっつ?」


 先ほどの言動以上に意図が読めない先生にただただ茫然と間抜けな返ししかできない僕であった。

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