第2話 ぼくわずらい

 長期休みも終わり、入学してから2回目となる季節が僕を訪れた。昨年の僕が待ち焦がれ続けた春だ。春はいい。新しい先生。新しいクラスメイト。リセットされる人間関係。クラスメイト達が離れ離れになる喜び。スクールカーストが一瞬にして崩れ去る快感。


 ……あれ?後半歪んでない?いや、歪んでいない(反語)


 そもそも、僕は去年一年間学校に本当に通っていたのだろうか。

 あまりにも刺激のない毎日でこれまでの記憶を誰かに消去されてる説も否定できないレベル。

 って思ったけど嫌な思い出は消されてないんだよなあ……。

 むしろよかった思い出はない。


 まあそんなのはささいなことだ。


 うっかり、学年の最下層に位置付けられた一年だったけど、まだ、慌てる時間ではない。


「……よしっ!」


 両手で顔を軽くパチンと叩き、自分の教室に入る。


 黒板を確認したところ、大方の予想通り席順は五十音順。

 と、思いきや僕の席はまさかの教室を正面から見て右最後列。

 何順なんだろうか。まあそんなのはどうでもいいのだ。


 物語の主人公がこぞって座るあそこ。選ばれし者だけがが座ることができる上座もとい神座。


「勝ち」を確信しながらこれからの未来の色について思いを馳せながら自分の席に着こうと目視したその先には陽の集団。


「あ、……終わったわ」


 新しいクラスメイト達の喧騒を背に、これから一年間お世話になるであろう自分のロッカーを入念に20分確認したことしか記憶にに残っていない僕の高校生活2回目の始業式が終わった。



 5月になった。楽しかったGWも終わってしまった。


 ……どうしてこうなった。


 誰とも話さず1か月終わってんだけどなんなん。バグかな?相も変わらず始業式と同じ喧騒がイヤホン越しに聴こえてきたので音楽プレイヤーのボリュームを少し上げる。


 音楽を聴きつつ読書をして朝のホームルームを待つ。てか、ホームというよりビジターに近い。日本語でわかりやすく言うと部外者。英語で言えばBUGAISYA。


 担任の先生が来たので、イヤホンを取り読書をやめる。


 「みんなぁー、おはよぉ……」


 小石川先生の若干眠たげな声がクラスメートの笑いを誘う。


「まあ、報告することはそんなないんだけど、今日の教育相談は杜若くんと〇×さんなんで忘れないようにねー」


「ひゃ、はいいっ!」


 予想だにしないところから不意に自分の名が呼ばれたので若干(?)声が上ずりどもってしまった。マジ焦らせんなよ。今年度独り言以外で初めて人と会話のキャッチボール成立したわ。しかも、美少女と話しちゃったわ。まあ、美少女といっていい歳なのかはわからないけど、小石川先生はこの学校の教師陣でたぶん一番若い。しかも、目鼻立ちが整ってて髪型はお団子スタイル。いかにもできるというか要領よく仕事をこなせる社会人って感じだ。


 しかし、学校が終わったら一秒でも早く帰るというタイムアタックを日々敢行している僕にとって放課後の教育相談とか苦痛もいいところ。

 

 てか、教育相談って何?教育とか行き届きすぎて不要もいいところなんだわ。赤点の網も全部すり抜けてきた僕に死角はない。


 それでも、代わり映えのない毎日だっただけにえっちな相談とかしてくれないかしらん?とか益体もない夢を膨らましながら授業中も適当、かつ、機械的にノートをとり6限の授業が過ぎていった。

 

そして、朝よりも少し短いホームルームが終わり退屈な一日が終わった。


「じゃ、杜若くんは4時半くらいに生徒指導室に来るようにね!」


 小石川先生は朝のけだるげな様子とは裏腹に、元気よくにこっと笑顔でそう僕に告げ教室を去っていった。

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